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平行世界の、君と僕  作者: 蟻足びび
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第十四話

「はーい!じゃあそれでは、これから、佐々木家特別仕様の『人生イバラの道』を開催したいと思いまーす!」


パチンと手を打ちこの場を取り仕切る。母さんはどうやら完全に主催者(ホスト)気分である。

おちゃらけた様子の彼女は、とても楽しそうだった。


「えっと、母さん......人生ゲーム、ですよね?」


状況を確認すると、『人生イバラの道』という名称で、盤ゲームで、しかもルーレットがおいてある。そんな状況で『人生ゲーム』以外のゲームは思い浮かばない。というか、『人生ゲーム』でいいだろ。別に、そんな厳しいゲームではないしな......


「いや、おにーちゃん。このゲームは、『人生イバラの道』だよ!異論は認めない。佐々木家伝統の、唯一の娯楽(オンリー・アミューズ)だよ!」


意味のわからない単語を口にしながら熱く語る野乃の勢いに押され、目を点にしてポカーンと何も言えずにいると、ズバッと、頼もしい助太刀がはいる。


「なあ、野乃嬢ちゃん。あぁっと、何が違うんだ?本家と、この唯一の娯楽(オンリー・アミューズ)と。別になんの変哲もない、ただの『人生ゲーム』じゃねえか。なあ、舞衣っ」


隣に座っている舞衣の肩を寄せ、同意を求める。


「わ、わたしっ......!?」


名前を呼ばれ真っ赤になってしまった舞衣だが、しばらくすると神妙な顔つきで、盤全体を舐め回すように観察する。


「どう?舞衣!わかった?佐々木家伝統の唯一の娯楽(オンリー・アミューズ)の正体が!」


菜々が誇らしげに、「ふんっ」と鼻から煙を出しそうになりながらそう放つ。どうやらその単語は、佐々木家では共通語の一つであるらしい。

んー......どう見ても『人生ゲーム』なんだよなあ。家を所有したり、結婚したり、たくさん棒が用意されてるってことは、子供誕生イベントも発生するんだろうし......


「な、なんですって!?」

「ふぇっ!?こ、これって......もしやっ」


どうやら謎の解明にたどり着きそうになったみたいな鈴と舞衣が困惑と混乱の声を上げる。

さらに詳しく()()()()()()()見回した彼女らは、顔を真っ青にして仰天する。


「そ、そのような、ことが......許されると、言うのか......」


その場に崩れ、膝と手を床に付き、打ちのめされた様子の舞衣。

その顔は青ざめ、目元を潤ませ、今にも泣き出してしまいそうである。

え?そんなにやばいゲームなの!?すっごく怖くなってきたんですけど......

鈴が、未だにわからない男子勢にしびれを切らし、ネタバレをする。


こんなゲームもあるんだなって、思うよ......


「そうね、これは降参ね。まさか、『マス全てが、【払う】マス』だなんて」

「「なっ」」

「そう、正解だよ!どう?驚いた?これが我が佐々木家伝統の唯一の娯楽(オンリー・アミューズ)だ!」


くそ、野乃め、口を開けば唯一唯一......売り場で売ってるもんを買ったんだから、日本中のおもちゃ屋を回ったら一個くらい......


「おい、しかも見ろよ、和。これ、一つ一つ、ちゃんと()()()()()()()()。そうとう手の混んだやり口だぜ、まったく!」

「やり口だなんて、瑛太(えーた)、わたしたちが詐欺集団みたいになっちゃうでしょ!」

「全部【払う】マスだなんて、ある意味詐欺だけどなっ!!」


詐欺集団の言い回しは間違えではない。野乃はどうやら墓穴をほってしまったらしく、僕にツッコミを入れられ、それに気づいた彼女が、しゅん、と頭を垂れている。

よく見ると、たしかにこれはすべて、修正されている。ってことは、もともと『人生ゲーム』だったものを、『人生イバラの道』に改良したってことか。


「じゃあ、ルール説明するね」


と、菜々が、立ち往生していたゲームを、進行する。


「基本は、『人生ゲーム』と変わらないよ。就職もするし、結婚もするし、家も買ってもらう。ルーレットを回して進む、っていうのも変わらない。でもね」


ここまで言って、にやり、と似合わない顔をする。わざとらしすぎてあざとくて可愛い。


「いちば___」「一番所持金が低かった人のほうが勝ち、だよ!!」

「ちょっ」

身を乗り出して野乃が割って入った。ニシシという、やりきったぜ顔も憎めない。一方菜々は、そこがどうしても言いたかったらしく、悔しそうに歯ぎしりをしている。


「そ、そんな、莫迦(ばか)な話がっ......!お金が、なくなる......なんて......わたしに、貧乏人になれと、そう言うかっ......!」


舞衣が、こんなにもこのゲームに感傷的になっている理由がなんとなくわかる。

というか、(じき)に皆もわかるよ、きっと......

とにかく、


「よしわかった、金を、取られまくればいいんだな!」

「ふふ、とんだドM(マゾヒズム)ね」


よし、部屋の端っこに体育座りになろうかな。


ともかく、この勝負には、勝たなければならない。

なぜなら、今まで僕は!勝ち続けているから!それだけではないのだけれど。

この小泉和歓迎会のゲームは、勝負形式で執り行われている。合計得点を競うルールだ。

トランプ、ビンゴなど、すべての競技において僕は”優勝”している。そして、これが最終競技。

僕のあと一歩後ろにいる鈴に、なんとしても勝たなきゃいけないのだ。


___私に勝つつもりでいるの?上等ね。

___賭けをしましょう。あなたが勝ったら、あなたの言うことを聞くわ。その代わり、あなたが負けたら、この家から出ていきなさい。


すっごく極端な賭けだと思ったけれど、あのときの鈴の顔ときたら、きっと仏様でも黙ってられないものだったので、僕は悔しくてつい引き受けてしまった。


「じゃあ、『人生イバラの道』の一位の得点を発表いたしまあす!」


母さんの言葉に僕はごくりと息を呑む。

鈴は余裕の表情だった。ムカつくな、くっそ。


「一位の方には、なんと、一万点をあげちゃいまーす!!」


出たよ、これね。クイズ番組とかでよくある、『最後勝ったチームが勝ちルール』。しかもそんな生ぬるいもんじゃない。

僕、合計点三十二点ですけど。

一万点なんて、確約じゃねえかよ。勝利へのチケットだよ。

わ、ちょっと待て、もしかして、鈴はこれを知っていたからこその、余裕の表情だったのか!?

やめろ、その顔で見るな!腸が煮えくり返るっ!


「じゃあ行きまーす」


野乃の合図で、戦いの火蓋が、切って落とされた。

今までの得点順に、ルーレットを回していくらしい。

「よし」と勢い込んでルーレットを回そうと手を伸ばすと......


「十時、丁度、だと......」


腕時計に表示された数字の羅列を見て、僕と瑛太が、戦慄した。









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