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平行世界の、君と僕  作者: 蟻足びび
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第十一話

「うわ、すっご......」


僕は、”超ノベルコレクター(菜々の父親)”の”超ノベルコレクト(本棚に並ぶ小説)”を拝んでそうこぼす。

非常に悔しいのだが、そのなんというか、選別、というか本選びが、究極に上手いのだ。

言い忘れていたが、僕はかなりの読書好きでちょくちょく書店に出向いたりはしていたけれど、ピックアップされるのが「売上の高い書籍」ばかりで、上位層にいる小説家たちの小説は読み漁ってしまった僕からしてみれば、ひどく物寂しかった。


が、ここに面陳されているのは僕の未読の本ばかりであり、どれも読んでみたいものだった。

思わず見惚れていると、ぷりぷりと頬を膨らませた菜々が、


「和ー?ここに来た理由、覚えてる?」

「ああ、もちろん覚えているとも」


我に返った僕はそう言い切って、積まれていた新作を手に取り、


「これをください」

「まいどありっ!」

「ちっが〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!!」


父さんノリいい!最初はゾーマやデスピサロを思いださせる()()だったのに、なんか今は、武器屋のおっさんレベルでいいキャラになっている。


「違うでしょーが。あなたはお父さんと話に来たんでしょーが!!」

「まあそうムキになるなって。大丈夫だよわかってる」


さくさくと会計を進めながらそう答える。忘れるわけがない。僕が一番混乱しているはずなのだから。

ピッピッとバーコードをスキャンさせていく父さんは「どうした?」と視線をはがすことなく言う。


「和は、お父さんに話したいことがあるんだって。『書店の店長じゃない方(ほんしょく)』の方に、ね」


いつの間にか、父さんの顔から笑顔は消えていた。というか、”光”が、消えていた。

恐ろしい剣幕で、でも穏やかな心情で、僕の話に、神経を尖らせていた。


「えっと、父さん」


僕は何一つ余さず、そのすべてを語った。





数分後。


「............」


すべて勢い良く喋ってしまったせいで、内容がうまく伝わらなかったのかもしれない。

ドクンドクンと、心臓が跳ねている。


反応を待つだけのこの時間が、異様に長く、冗談抜きで、寿命が縮んでいくように感じられた。

ごくり、と生唾を飲み込む。


それから、どれくらい経っただろうか。

父さんが、考え込むように落としていた視線を、まっすぐ僕に向けた。思わず、ぶるっと身震いする。

視線だけで、様になる威厳が彼にはあった。

たじろいではいけない、ここでひいてはなんの意味もない。今にでも走り去りたいくらいの焦燥が、心を蝕み、侵食している。冷や汗を、顔につたわせ、下唇を噛み締め、拳を握り、足を踏みしめ、僕はそこに立っている。あと一歩のところで、こらえている。

ただ目があっただけなのに。それだけのことなのに、まるで蛇を前にした蛙のように感じてしまう。


ためて、ためて、ためて、ためて___


「お前は、一体誰なんだ?」


とだけ言った。






「お前は一体誰なんだ?」

「..................へ?」


間抜けな声だけが、なんとか這い出た。意味がわからなかった。

仕方なく次の言葉を待つ。待つ。待つ___


僕に投げかけられるはずの言葉は、飛んでこなかった。


否。訂正しよう。”父さん”からは、飛んでこなかった。

というのも、


「おっそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!」


という聞き慣れた叫び声が、書店いっぱいに響き渡ったのだ。


入り口の戸を開け、ゼェゼェと肩を上下する野乃の姿が、そこにはあった。


「おそい!おそいったらおそい!ねーちゃん!何()()()()()におにーちゃんを連れてきてんのっ!?」

「野乃も、なんで()()()()()()に来たの!?」


なぜか、野乃が怒っているような......


「こんなとここんなとこ言われるのお父さん悲しい......」

「お気の毒に......」


女二人がなぜか張り合っているのをよそに、僕は、さっきのが嘘のように弱々しくなった父さんを慰めるという、斬新な構図ができあがった。





「あーも、おにーちゃんもおにーちゃんだよー。ねえちゃんばっか......ねえちゃんとそんなに二人でいると、学校の友だちが『おい、お前のねーちゃん、彼氏できたの?』とか言ってくるから、いちいち噛み付いてやらなきゃいけなくなるんだから」

「起きててもやるんだ!?やっぱ!?」

「こりゃだめね」


はぁ、とため息をつく二人。なにかいけないことでもあったのか......?

あ、そういえば、


「野乃。さっき、『おそい』って、叫んでなかったか?何が、遅かったんだ?帰りが遅いのを心配してくれた、とかじゃないよな」

「うん違う」

「『(クエスチョン)』が付いているところだけ答えろ」

「まあ、それは後々わかるよ!」


にやにやと、会話に突っ込んできたのは菜々だ。


「え?菜々も知ってるの?」


どうやら野乃だけの都合とかではないらしい。まったくもってわからないな。


いっつも僕は蚊帳の外だ。でもよく考えれば、まだ来たばかりの男だし、ちょっと敬遠されてしまうのも無理はない、か。

なんて考えは甘かった。


僕は何もわかってなかったみたいだ。



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