第十話
「んで、これはどうゆうことなんだ?」
羞恥に真っ赤に茹で上がった顔で、僕は尋ねる。
「どうって?どうもこうも、ここがお父さんの経営する、佐々木書店よ!」
どどーん!
人差し指を僕の鼻先に突きつけ、”かっこいいポーズ”でそう言い放った。
「いや、なんか、こう期待はずれと言うかだな......専門家みたいな人が出てくるのかと思った」
オカルトGメンみたいな。
だが菜々は、なぜか上機嫌に「ふふーん」と鼻を鳴らし、
「まあまあ、入ってみようよ。お父さん、こっわいよー、泣いちゃうかもよー?」
鈴とかがやってきたらきっと頬に一発ぶちかましていただろう顔で、おちょくってくる。
僕だってやられっぱなしじゃない!たまには言い返してやるのもありだ!
なんて思考によって、僕は後悔することになる。
「ははーん、この僕が?高校生になってから、泣かされたことなんて一度もない僕が?」
「佐々木菜々が死んだ時も......?」
「なわけねーだ......っておい!ななな涙目になるなっ!お願いだやめてくれ!」
「ぐすん......うっぐ......」
「おい、まじか!どうすりゃいんだ!もう!っわ〜〜ん......!!」
数分後。あの後菜々に慰められるという恥辱的な行為を受けた僕は、近くにあった電柱に額を貼り付け、体育座りの格好をしていた。
......それにしても、「私が死んだ時泣かなかった」ことで、急に悲しんだりしたんだ?あの涙はきっと”究極の嘘泣き”の賜物だったのだろうけれど、純粋に、悲しそうな目をしていた。
「わ、私が悪かった!ごめん!いや、ごめんなさい!」
「そんなに謝るな!僕の男としてのレベルが、どんどん下がっていく......!」
相手が好きな女の子ならなおさらだ。すべての「慰め」がクリティカル攻撃となって僕の心を抉る。
「僕は男の子なんだぞ!正真正銘の、誇り高き___」
「ぅぅお前らぁぁぁああ!!!」
「キャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」(←僕)
突如耳に飛び込んできた図太い声に、僕は両手片足を上げ盛大に驚く。が、驚いたあと僕は後悔する。
ぎろり、と僕を威嚇するような鋭い眼球に、一瞬で背筋が凍りついた。
その男は僕を一瞥し、
「菜々ぁ、こいつぁ誰だぁ?」
と鼻息を荒げ質問する。いや、訂正しよう。詰問する。
いや、目の辺りとか、もはや拷問だよ......
もちろんのこと菜々も___
「..................」
菜々も......いや、ホントのことを言おう。菜々は「待ってました」とでも言うように、にこにこしている。
慣れてんだろう。いや、なにか、別の理由があるような......
「__________な人」
僕は選択ミスをした。別のことに意識を回していたおかげで、大事な所、”僕は誰であるか”を聞き逃したのだ。
それを耳にした父親は、一瞬表情を鬼のように強張らせ。そして、「にっ」と口角を吊り上げ、
「がぁっはっはっはっはっ!!」
と盛大に笑ってみせた。
少し照れくさそうにしていた菜々も、やがて「ふふっ」と吹き出し、その男と一緒になって笑いだした。
「おい、僕を蚊帳の外にするな!聞いてんのか!悲しくなるだろ!なんて言ったのか教えろー!」
「もう、全く。和はだめだよー、何もわかってない。私がどんな想いでここ一週間を過ごしてきたか。好きな男の子と同じ屋根の下で暮らすことって、すっごい幸せなんだなって、思ってることも」
質問の答えになっていないぞ......
はぁ、僕には結局教えてくれないみたいだ。気にならないわけじゃないけれど、このままでは話が進まない。
そう思ったので、
「あのぅ......」
とつぶやく。
「..................」
「.....................」
えぇ、これちゃんと言葉にしないといけないのー?絡みづら。
「あのぅ、あなたが___」
「そう、俺が菜々の父親。偉大なる書店オーナーだ!!」
「へー..............................」
絡みづらぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!