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#2 小僧、一緒に来るか?

 少年は唖然としていた。死を覚悟したその直後に訳の判らない青年に助けられ、挙げ句の果てには自らの不注意を指摘されたのだ。


「じゃ、俺は他にも用があるからおさらばだ。じゃあな、小僧」


青年は快活に話した。小僧と呼ばれたのが気に食わなかったのか、少年は青年に対して言った。


「小僧じゃねぇ、アベルだ!それにもう俺だってそれなりには戦えるんだからな!」


「そうか、自己紹介がまだだったな!俺はサイモン。…よし、自己紹介はしたぞ小僧」


「おまっ…俺は15だぞ、小僧なんて歳じゃないからな!」


「そうカッカすんなよ。それとも何だ?自分は一人前だって言いたいのかぁ?」


サイモンがニヤニヤと笑いながら言う。彼は右手で剣を(もてあそ)んでいた。


「…まあそんなところだ。一応礼は言っとくけどな、人をそう易々と小僧扱いするんじゃねぇ!」


「よっしゃ、じゃあ一人前の男なら一人でも生きていけるな!そうだろ?ん?」


アベルは答えられなかった。彼がここまで来れたのはアレックスや他の仲間と共に生きてきたからという事実は揺るぎないものであったからだ。そして何よりも自分は無力であるということを先ほどから痛いほど自覚していた。


 沈黙の音が崩れた家屋に流れる。しばらくして、サイモンがやれやれといった風に言った。


「小僧、一緒に来るか?」


沈黙を破ってサイモンがこの言葉を口にした。


「ん…」


アベルは小さく頷いた。


「よし、ついてこい!…それと、先に言っておくが返事はもっとハキハキ言った方がいいぜ。うちの頭はモジモジした奴が嫌いらしいんでな!」


そう言うとサイモンは崩れた家屋から出ていった。


 日が沈み、月が顔を出した。アベルはサイモンについて歩いていた。

 アベルはサイモンの手に握られた双剣が不思議で仕方がなかった。衝撃シールドに守られているはずの機兵を容易く斬り下ろせる武器など、彼は知らなかったからだ。ましてや剣など、機兵の機動力や武装の前では無意味にも彼には思えた。


「…何だ?"蝕装"が気になるのか?」


視線を感じたのかサイモンが言った。


「もちろんだ。こんな武器見たこともないし聞いたこともない。…どうしてこんなモノで機兵と戦えるんだよ?」


率直にアベルは疑問を口にした。それを聞いてサイモンは驚いた様子で答えた。


「えっ、マジかよ!蝕装がわからないのか!?」


「だから、そのショクソウって何だって聞いてるんだよ」


「簡単に言えばパニッシャーの爪や牙を俺達人間が扱えるように機兵の残骸と組み合わせて使ってる武器だ。これがまた大変なんだよ、作るのが!」


「何で銃じゃないんだよ。剣なんかよりそっちの方がいいだろ」


アベルがサイモンを質問攻めにしているその時、サイモンは急に声色を変えた。


「…待て、喋るな。機兵がいる」


「…急にどうしたんだよ?やっつければいいじゃないか」


「いいから来い、隠れるぞ」


姿勢を低くして二人は物陰に隠れた。少しして、サイモンの言った通り、ビルの間から機兵が出てきた。


「…何だよ、あんなの見たことが無いぞ…!」


アベルは驚きを隠せなかった。


 その機体は6メートル程あり、四足歩行をしていた。機銃がそこかしこに備え付けられており、対空ロケットが背部にむき出しになって装備されていた。鈍い鉄が月の光に照らされている。


「サイモン…!」


アベルの訴えるような眼を見てサイモンは冷静に答えた。


「無理だ。"今の"俺に倒せる相手じゃない」


「でも、その蝕装なら…」


「ああ。だが無理なものは無理だ。今はやり過ごすぞ」


二人は物陰で息を潜めてその時を過ごした。機械の駆動音が聞こえなくなる頃、サイモンがアベルに言った。


「いいか小僧。基本的に俺達は機兵とは戦わないんだ。よっぽどの事が無い限りはな」


「じゃあ何でさっき俺を助けたんだ?」


「あれは機兵の不意を突けたからだ。それに、助けられるものは助けたい主義なんだよ。俺は」


真剣な表情でサイモンが言った。


 月明かりの下、二人は歩き続けた。しばらくして人工的な光が見えてきたその時、爆発音がした。


「今度は何だよ!?」


「派手にやってんな、あいつら。大丈夫かぁ?」


サイモンはやれやれといった口調で言った。


「派手にやってる…って、どういうことだよ。一体何が…」


アベルは状況を把握できていないようだった。


「…一つ良いことを教えてやろう!小僧、伏せろ!」


「はぁ?何を急に…うわっ?!」


アベルはサイモンに頭を押さえつけられ、無理矢理姿勢を低くさせられた。その直後、ロケット弾が彼の頭上を掠めていった。


「…今のは…」


サイモンが呟いた。そして叫んだ。


「小僧!!死にたくなけりゃ光に向かって全力で走れぇっ!」


サイモンが駆け出した。アベルは慌てて彼を追いかけた。聞き覚えのある駆動音をアベルは耳にした。


「あれって!!さっきの!!!」


走りながらアベルはサイモンに聞く。


「察しがいいな!その通りだ!」


 アベルは必死でサイモンの走りに食らいついていった。少しして、光の方から人影が現れた。


 その人物は槍を持っていた。その姿を見てサイモンは叫んだ。


「おいベル!!この小僧任せる!!!」


アベルはサイモンに唐突に襟を捕まれた。


「受け…とれぇっ!!」


そして、投げられた。


「うわああぁぁぁぁっ!?」


アベルの体が宙を舞う。一瞬の浮遊であったが、アベルにとっては永遠にも感じられた。


「落ちる」、アベルがそう思ったその時、彼は何者かに抱き抱えられた。


「まったく、人使い荒いんだから…」


女の声が聞こえた。


「よっ、生きてる?」


快活にその女は言った。


「多分生きてます…はい…」


アベルは憔悴しきった表情で答えた。


 アベルがちらりとサイモンがいる方を見ると、赤い閃光が煌めいた。そして、彼はここで一度意識を手放した。

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