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ダンジョン、仲間が増える




「主、その人間をどうする気だ? 趣味が悪いぞ」

 20人ほどの盗賊をすべて片づけて来たのか、コボルはあの後すぐに戻ってきた。

 その姿に返り血が付いていないのがとても気になるが、まあただ単にその戦闘が一方的だったんだろう。

 ろくに視認することも出来ず死んでいった盗賊の事を考えると多少の憐れみさえ覚える。



「あぁ、"合成"に使おうと思って」

 俺は自分の考えていたことを素直に話す。

 これは、ダンジョンリストで使用できる能力の一つでモンスターを合成して、新たなモンスターを作りだす事が出来る……はず。


 少し、マッドサイエンス感があって使いたくは無かったが、ダンジョンとして強くするには全ての能力を使っていかなくてはならないだろう。

 確実に通常の"召喚"より強いモンスターが出てくることは予想できる。

 

「こいつを仲間にするのか?」

 目線を意識を失っている盗賊に少し移すとコボルは意外だ、と言わんばかりの雰囲気で問いかける。


「まぁ、間接的にというか、最終的にはそうなるな」


 確かに、こいつがいくら屑でも"合成"は倫理的に気分が良いものでは無いか。ルナにも意見を聞いてからにしよう。

 そう思い直した俺は早速ルナに聞いてみる。


「ルナはアイツを"合成"するの嫌か?」


「いや、私は別に平気だけど? でもミラちゃんは良い思いはしないんじゃないかな」

 それを聞いたルナはあっけらかんとしていて、何故"合成"を嫌だと感じているのか分からないようだ。

 ルナはやはり、仲間と敵の線引きをはっきりさせているのだろう、迷わない。

 いや、そもそもの倫理観として、俺が地球生まれだから嫌だと感じる部分もやはりあるのだろう。


 しかし、ルナはミラの身を案じて、気遣っているところから他人が全員死んでも構わないという感覚ではない事が分かる。

 魔族のみに対しての感覚、もしくはミラを少し仲間のように感じているのかもしれない。


 

 当事者のミラは一連の出来事をまるで他人事のように眺めていたミラは盗賊が倒れた時から呆然と立ち尽くしている。

 その表情は相変わらず何を考えているのか分からないがその焦点は意識を失い倒れている盗賊から離れない。


「ミラはどうなんだ?」

 そう、問いかけるとこちらを向いて少し、驚いたような表情をしている。

 何か、驚くようなことがあっただろうか。

 

 

「……え……? なんで、私に……聞くの」

 

「いや、これからここで暮らしていく仲間になるんだし」

 先ほどまでの表情が少し呆けた顔に変わる。


「え……?」 


「主、それじゃ分からんだろ」

「ユーヤ、まだ私たちは何も伝えてないよ?」


 あぁ、そうか。俺はまだ何も言ってなかった。 


 ということはこのあと、ダンジョンの奴隷にされるとか、殺されるとか考えてたのだろうか。


 バカな、そんなことはしない。

 

 俺達は協力し合える。


 その表情から読み取れる感情は迷いや戸惑い。

 こちらの言葉を待っているようにも見える。

 なら俺は心を、不安を、全てを拭えるように言ってやればいい。


 この子は、幼い。


「……私はっ、」

「――――ミラ、俺達の仲間にならないか?」

 言葉を遮るように、そう伝える。

 少し躊躇っているのか、疑っているのか、ミラは少し固まる。


 そして、数秒の静寂ののち、ようやく口を開く。

「わ、私は……奴隷……です。」

 まずは奴隷という枷を。 


「これからは奴隷なんかじゃない」


「私は、魔力も無い……出来そこないです」

 劣等感を。


「関係ないね。俺だって魔力なんてなかったさ」


「私は……身体だって弱いし、……汚れてる」


「それだって、このダンジョンには関係ない」


「私は……、私は!!」

「―――― 一緒に、行こう」

 

 そう、俺はこの少女を助けたい。偽善でも何でもいい。

 最初に助けてしまった時から決まっていた事なのだ。


「俺は、ミラを仲間にしたい」

 確かな決意を口に出す。

 

 そこまで言うと、途端に表情を歪ませ、泣き崩れていく。

 その姿は一人の少女だった。


「…………。 怖かったんです! 辛かったんですッ!!」

 吐き出すように、零すように溢れでてくる言葉はとてもこの少女には背負えない重みで。

 俺なんかが気軽にかけることのできる言葉はなくて、簡単な相槌ばかりを返してしまう。


 それでも出来るだけ優しく。

 そうしないと、この少女は壊れてしまう。


「……嫌なんです! もう生きるのも怖い!!」


「うん」


「でもっ、私は……死にたくないっ!!」

「産まれた時から居場所は無くてッ! 自立をしてもっ! すぐに奴隷にされて……っ」


「うん」


「でもっ!! そんなこと言われたら、望んでしまう……」

 この少女は、普段、感情を抑え込んでいたのだ。

 辛さを、恐怖を消すために、耐えるために。

 本当は……年相応なんだ。


「私は、奴隷で魔力も力も無くて、それでも希望を求めてしまう……」


「あぁ、それでも、俺はミラに仲間にしたい」


「…………。」


「うん! ミラちゃん、私たちの仲間になってほしい」

 ルナは出会った時のような笑みを浮かべて、そう言った。


「…………。そう、ですか」


「……あなた方は勝手、です」


 それは、どこかスッキリとした表情で。

 初めて見せる年相応の少女の微笑みだった。 





「あれー? コボルは何も言わなくていいのー?」

 ルナは少しにやけて、腕を組んで一連を見ていた。コボルのお腹を肘でつついて、からかいだす。


「確かに、コボルもなんか言えよー!」

 それに俺も便乗する。

 コボルはカッコつけてずっと腕を組んでみているのだ。


「う、うるせえ!」



「でも……まぁ、あれだ。」

「……宜しくな」



「……宜しく、ですっ!」







――――そして、このダンジョンに仲間が増えた。


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