渡海
寧寧は緋紗媛が持っていた路銀でなんとか聆の国に向かう船に乗ることが出来た。しかしそれは密航船といっても差し支えない代物だった。聆と幵は龍が住まうとされる島の周辺を巡り厳しく対立しているので、わずかな交易船しか行きかう事はなかった。
そんな状況なので両国の役人が出した私掠特許状を得た海賊が横行し無法状態になっていた。だから船も海賊崩れのようなものだった。
少年に変装していた寧寧は船の中では食事係をしていた。船の中で働くことで少しでも足しにしようとしていた。そのように見せたのも聆に出稼ぎにいくということにしていたからだ。もっとも、龍の島に行ったら二度と帰れないかもしれないと思っていたけど。
幵の国の港を出て三日目、ようやく龍が住まう島に近づいた。このあたりの海域は波も高く乗ってきた船は水面に漂う木の葉のように揺さぶれていた。しかも運が悪いことに嵐の中に突入していた。
船の中では波に揺さぶられ荷崩れが起きて船体にヒビが入り浸水し始めた。船体のヒビを男たちは急いで修理しようとして、その他の者は船倉に溜まった海水を汲みだしていた。その作業に寧寧も駆り出されたが、当然のことながら力仕事についていけることもなく息を上げてしまった。それを見た船員の一人が寧寧のしかりつけてきた。
「お前、死にたくなかったら早う水を汲みだせ! しっかりやれ!」
そういって寧寧の頬をぶん殴ったが、寧寧の身体は運悪く船倉の底の水たまりに落ちて行った。それを見た別の船員が助けに行ったが、そのとき服が開け胸が露わになってしまった。
開いたところから寧寧の未熟だがわずかに膨らんだ胸が見えてしまった。それを見た船員は寧寧の股間を思わず触った。するとこういった。
「なんでだよ! 女が入っていたぞ! 今回の航海では女の客はいないはずだぜ! しかもこいつは生娘みたいだぞ」
薄れていく意識の中で寧寧はある考えが浮かんでいた。それは幵の兵士のように自分の貞操を犯すのではないかと。そういえば幵の皇帝はかつて聆の軍勢が侵略してきた時に女子供を虐殺したと聆は残虐な国だと宣伝していたけど、実際は現在の幵の軍が近隣諸国で同じことをしているということを領民のほとんどが知っていた。だから船員も同じことをするかもしれないと思っていた。
その時、目の前で寧寧の身体を抱いていた船員の身体が吹き飛んで視界から消えてしまった。一体何が起きたのだろうか? 確かめようとした寧寧であったが、そのまま意識を失ってしまった。