憤恨!
この時、雫峰には唯一の生存者がいた。たまたま隣村に出かけていた寧寧という十五歳の少女だった。彼女は病身の父親の薬を求めて行った帰りだった。遠くで村が燃える光景を見て、立ち止まっていたが軍馬の蹄の音が聞こえてきたので道の祠の陰に隠れていた。
その時、目の前に村を襲った連中が通り過ぎていた。奴らの馬には村人が大切にしていた食料などの物資が積まれていた。しかもその一つに見覚えがあった。それは村祭りに使う大事な楽器だった!
寧寧が驚いていると、連中が立ち止まって馬に旗印を上げていた。それは幵の皇帝・繍麾下の軍団を示すものだった。そして隊長と思われる男がわずかな軍団にこう言っていた。
「ようし! これからわしらは雫峰に向かって村が襲われたところを発見したという事にする。そしてお前らは村から奪った物資を宿営地に持って帰れ!
そうそう、村から奪ったガラクタは鼎の商人にでも買い取らせよ! やつらは結構がめついから買ってくれるさ! そして金をもらってから国に戻せ! そうすれば鼎の連中に襲われた証拠になるさ。
なあに、相手が違うて言っても構わないさ。なんだって我らが帝陛下は野蛮な行為なんぞするわけないって信じているから大丈夫さ!」
そういって大笑いしていたが、寧寧は憤っていた。なんてひどい連中なんだと。いままで自分たち村人は戦に勝つためにと、皇帝が要求する重税に耐え従ってきたというのに、その軍人によって殺されるなんてひどすぎる!
そもそも鼎は庶民を虐殺した非道の国だと繍皇帝が非難していたというのに、その軍が同じことをしているなんて信じられなかった。寧寧はその事実を知ったとき、ある事を思いついた。この乱れ穢れた世界を変える力を手に入れたいと。