惨劇!
何処かにある幵は長く平和な国であった。しかし宰相に就任した繍が国家をほしいがままにした結果。帝になりかわってしまった。そうのうえ繍はかつてこの地で栄えた麗華帝国の再興を夢見、周辺の国々と戦をしはじめた。
最初、優位であったがあまりにも多くの国と戦ったために疲弊した。そのため民は塗炭の苦しみを味あっていた。もっとも周囲の国々も幵ほどではなかったが、倫理観が欠如しており、略奪行為は当たり前、いくら軍紀を徹底させようとしても蛮行をやめることがなかった。
そんな泥沼に陥って何年か過ぎたとき、幵と隣国の鼎との境に近い山村が殆ど野盗と化した幵の部隊の襲撃を受けた。その理由は鼎と内通した者がいるので、その制裁ということであったが、実際は満足に補給物資を受け取れず、しかも徴発することを面倒くさいと考えたためだった。
その村、雫峰は阿鼻叫喚の地獄と化し、友軍であるはずの兵士によって次々と命を奪われた。それに対し村人は抵抗したが無慈悲に殺害されていった。そして最後の村人を一軒の家屋に閉じ込めると火を放ち焼き殺そうとしていた。
「隊長! いくらなんでもひどすぎませんか? 中に閉じ込められているのは女子供ばかりですよ!」
兵士の一人がそう言ったが、隊長と呼ばれた男は大刀を振り下ろして首を切り落としてしまった。
「村人が生き残っていたら何が起きたのかばれるだろう! まあ上には鼎の連中による蛮行でも報告するだけさ。どうせ、我らの軍は鼎で同じことをやっているからその報復とでも思うさ。
そうすれば、まだまだ戦は続くし、仕事はとりあえず無くなることはないし! それに、こうして駆けつけたときにはみんな殺されたという事で終わりさ!」
隊長はそううそぶくと、火を放って雫峰から撤退し始めた。その背後には猛烈な炎に包まれた村の家々が最期の悲鳴をあげているような光景が広がっていた。