俺たちが目指す先
俺達は山を降りて俺が見つけた集落の方角へ進んでいる。
正直言って身体的には限界だ。
こりゃ明日、筋肉痛確実だな。
歩くこと一時間。
「ねぇ、私たちってどこに向かってるの?」
知らないでついてきたのか。
「さっきの山から見えた集落だよ」
「それってティス村のこと?」
「何の村だか知らんが多分それだ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
俺は早くこんな森を抜けて休みたいんだ。
「その村って確か最近魔物に襲われて廃村になった って聞いたことあるけど」
「は? それマジ?」
「大マジ、大マジ」
おお、ノリがいいな……じゃなくて
「もっと早く言ってくれよ」
「いやだってどこに行くか知らなかったし」
洞窟の少女との初の真面目な会話がこれとはな。
俺ってこの世界に来てから無駄な事ばっかりしてないか?
「他にこの辺りで休める場所はないのか」
「正反対の方向に王都があるよ」
ラッキー、俺はまだ神に見放されていない。
「距離は?」
「ここからだと……歩いて4時間」
やはり俺は神に見放されている。
もう日も暮れかかっている。
「仕方ない。今日はここで野宿だ。いいよな婆さん も」
「年寄りに野宿なんぞさせる気か。お主は」
今の婆さんは若いだろうが。
「私、野宿、嫌」
お前も反対かよ。
俺だって嫌だよ。
「夜中に動き回るよりはいいだろ」
俺は適当な木や葉っぱを集めてそれらに火がつく想像をする。
葉っぱから煙が上がり始めた。
こんなもんか。
完璧に日が暮れた頃。
俺達は火を囲むようにして座っている。
「さてと、丸一日一緒にいてなんだがそろそろ自己 紹介しないか?」
「どういう心境の変化じゃ?」
「心境の変化っていうかやっぱり名前知らないと不 便だろ。しかも見た目は若い女の子を婆さん呼ば わりするのも変だしさ」
「わしは一向に構わんが」
「俺が困るんだよ。街の中で婆さん婆さん言ってれ ば俺が変に見られるだろうが」
この姿になってからの婆さんとはどうにもやりづらい。
もう一人の方も確認する。
「お前もそれでいいか」
「ふーん、私はいいけど」
なんかこいつ態度でかくなってないか?
洞窟で泣いてた少女のイメージはどこに消えた?
気を取り直して自己紹介だ
「俺の名前は笹森隆二だ。隆二って呼んでくれ」
「わしはルビエ=ランギル。呼ぶときはルビエでよ いぞ」
「私はウィルマ。下の名前は捨てた」
……一通り自己紹介はしたが続ける話がない。
「えーと、明日も歩かないといけないし今日は早め に寝よう。うん、そうしよう」
自己完結して眠る準備をする。
寝袋を三人分想像して作成する……よし、出来た。
「わしが寝ずの番をする。二人は寝ておれ」
ここは言葉に甘えておくか。
そう思い俺は眠りについた。
「おい、リュージ起きろ」
あれ?もう朝か。
目を開けると若い婆さん、ルビエがいた。
「もう朝か?」
辺りはまだ真っ暗だ。
「まだあれから数時間しかたっておらん。少し注意 する事があってな」
「注意?」
「お主の魔法は少しばかり異質なものじゃ。街とか 人目の多い場所では避けたほうがいい」
「それはどうして?」
「なぁに、わしの長年の勘ってやつかの。とにかく 気をつけるようにな」
「はぁ、分かりました」
「あともう一つ」
まだ何かあるのか。
「その服装は周りからすれば変じゃ。魔法で変えと け」
そういえば下校途中にこの世界に来ちゃったからずっと制服だったんだよな。
俺は少し考え想像で制服を普通そうな私服に変えた
「こんなもんでどうだ」
「いつ見ても万能な魔法じゃの。その服装なら平気 そうだ、合格」
「他にはもうないか?」
「ないな。さあ、夜明けまでにはまだ時間がある。
もう一睡しとけ」
促されるままに俺は眠りにつく。
どうか明日こそはまともなベッドで眠れますように、と願いながら。