お題【幻聴】
「Battery Low」
気持ちよく聴いていたお気に入りの曲が終わる前に、ワイヤレスイヤホンの充電が切れた。
仕方なくジャックタイプのイヤホンを鞄から取り出す。
どこかで買い物した時に、おまけでもらったイヤホン。
昔のイヤホンって全部、こういうのばっかりだったんだよな。
一度ワイヤレスを体験すると、もうジャックタイプのイヤホンのコードがうざくてうざくて。
あ、ウォシュレットみたいなものか……なんて考えながら装着したら、何か聞こえてきた。
「……ダ……カ……」
イヤホンジャックはまだ、MP3プレイヤーに挿してはいない。
イヤホンをいったん外してみる……うーん。
周囲の音が聞こえているわけじゃないみたい。
もう一度、装着する……と、また声が聞こえた。
「……ヒダリカラ……ヒダリカラ……」
左から?
今、立っている場所は住宅街、見晴らしが良くない交差点。
その交差点の片隅に、花束が添えられていた。
ちょっと待って……これ何が聞こえているんだ?
「……ヒダリカラ……クルマガ……クルナンテ……」
すぐに左を見る。
しかし、今は車は来ていない。
何かを教えてくれた……というわけではないのか。
イヤホンジャックをMP3プレイヤーに挿すと、この幻聴は聞こえなくなる。
でも、外すとまた聞こえるようになる。
「……ヒダリカラ……クルマガ……クルナンテ……イタイ……イタイ……イタイ……」
これ、もしかして、ここで亡くなった方の……声?
それからは色んな場所でイヤホンを試してみた。
実験結果をまとめると、このイヤホンは、ジャックをどこにも挿さない状態で装着すると、その周囲で亡くなられた方の最期の声が聞こえている……みたいなんだよね。
「ヒカレタ!」とか「シンゾウガ……!」とか「ナンダ? ササレタノカ?」なんてのもあった。
死んでからの時間が短いほど、声は大きく聞こえるようだ。
このイヤホンを付けるようになってから、僕はすっかり音楽を聴かなくなってしまった。
不謹慎かもしれないけどさ、死者の声の方がずっとずっと面白いんだ。
常にイヤホンを付けるようになり、次第に事故現場を巡って歩くようになってしまっていた。
今日も、教習所で知り合った友達の地元で、よく人が飛び込むという踏切に声を聴きに来ていた。
カンカンカンカン……。
遮断機が下りるのに合わせ、声が聞こえ始める。
「……イマ……タ……」
お、来た来た。
ここの踏切、手前が民家の塀で視界が開けてないし「イマ、ミエナカッタ」とかかな……。
そう。
最近は、こうやって聞こえ始めたとき、今際の際の言葉を考えるのにハマっている。
「イマ、オサレタ?」
うわー。残念、ハズレー!
でも、まさかの他殺系!
事故で死んだ人の声よりも、殺された人の声の方が、にじむというかブレるというか、怒りに震えているように聞こえるんだよな。
これ、絶対に殺されてる……なんて勝手にボルテージを上げていたら、急に酷い耳鳴りがした。
立っていられないほどの。
僕は頭を押さえながら、その場にしゃがみ込んだ。
「チッ」
舌打ちが聞こえた。
それもイヤホンの外から?
思わず頭を上げたそこには、黒っぽいパーカーを深めにかぶった誰かが線路の真ん中で転び、ちょうど起き上がろうとしていたとこだった。
そこを、凄まじい金属音を軋ませながら電車が通過して……いや数両が通過した時点で停まった。
辺りに飛び散っている肉の欠片を見て、僕はすぐに状況を理解した。
「キュウニ……シャガミヤガッテ……コロスツモリガ……ギャクニ……」
イヤホンから、やけに大きな、にじんだ声が刺すように響いた。
<終>




