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お題【吉村】

「それでさ、お前も〇〇県だろ? 俺は××なんだけどさ、お前はどこよ?」


 郷里から遠く離れたこの大学を選んだのは、こういうことを言い出すヤツにできる限り遭いたくなかったからなのに。

 どうして居るかな……それも、よりにもよって嫌でも顔を突き合わせざるを得ない同じゼミに。


「あー、うん……田舎の方だよ」


「どこよ? □□は近い?」


 近くない……と言ったら、絞られてくるじゃないか。まさか、こいつ、僕の出身があそこだってこと、分かって絡んできているのか?


「△△がさ……◎◎で、絶対■■なんだけどな」


 ノイズの浸食が増えて行く。

 僕の中にストレスがすごい勢いで溜まって行くのを、聴覚的に感じられる。

 最近はこの症状が出ない日がようやく増えて来てたってのに……遠い日の、親父が怒鳴っていた時の記憶が蘇る。

 ああ、ダメだ。ダメだ。

 このままじゃ……僕は、気分が悪いと言って、店の外に出た。

 地元ほどじゃないけれど、星がよく見える。

 地元は、あんな場所だったけれど、星が綺麗だったのだけは好きだったな。


 少し落ち着いた。

 ポケットからタブレットを取り出し、奥歯で噛み砕く。

 店の前を通り過ぎる人の言葉から、次第にノイズが消えて行くのを感じる。ああ、これでもう大丈夫かな、そう思った矢先だった。


「よう。キチムラ。お前、キチムラだろ。すぐに▲▲だったぜ。なんせよ▽▽……」


 急激にノイズが戻って来る。

 やめろ……僕は、親父や兄貴とは違うんだ……暴力なんて絶対に……やめろ! やめろっ!




「なあ、アレ、本当だと思う?」


「いやいや、作り話っしょ。確かにね、凄惨な事件とか事故の現場が、過去の痕跡を隠すために安全ですよーみたいな名前にするってのは聞くよ。従兄弟が東京の大学行ってるんだけどね、競艇場のある平和島ってのが、昔、鈴ヶ森という罪人の処刑場だったんだーなんて話、自慢げにしてたけん。あんた東京で勉強もせんとギャンブルかいって」


「それにしてもねぇ。キチガイの集まっていた村で吉村になったって言われてもさぁ。普通はキチって音を残さないよね?」


「その言い方、よくないよ。放送禁止用語だよ。だいたいさ、さっきの話が本当なら、その村人たちって日本軍の実験台にされてたってことでしょ? 被害者じゃない。それなのに、酷すぎるよ」


「太平洋戦争の頃の話が今に残っていること自体、嘘確定なんじゃないの? そんな事件、教科書に載ってないよ?」


「そういう君は、同じ県民同士でも西側と東側でバカにしあってるじゃない。藩が違ったから、とかいう理由。江戸明治の話だし教科書にも載ってないし」


「いや、うちのとはレベルが……あー、あいつ、ちゃんと謝ったかなぁー」


「ごまかすなよ……と言ったら戻ってきたよ……え? 血? あれ、血かよおい?」




 ノイズが広がっている。

 音だけじゃなく、形まで歪んで……こんなに酷いのは、兄貴が親父を殴り殺したあの日以来だ……。


 僕はおかしくない。

 僕はおかしくない。

 僕はおかしくない。

 ノイズが近づいて来る。

 あの日のように……僕は、ノイズになんか、負けない。

 僕はおかしくないんだ。

 僕はッ!




<終>

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