お題【腕の異物】
ある朝、目が覚めると、腕に異様なミミズ腫れが出来ていた。
手首のあたりから腕の付け根まで、三本爪でギーッと引っ掻いたような跡に加え、その長い傷と傷との間をつなぐ無数の短い傷。
どう見ても、ミミズ腫れによるアミダくじ。
寝ている間に無意識に引っ掻いたとしても、いくら何でもこれはない。
病院に行こうか迷ったが、仕事に遅刻気味だったのと、痛みや痒みは全くなかったのとで、とりあえず長袖を着て家を飛び出した。
午前中は何事もなく仕事に集中出来たけれど、昼休みにチクチクと痛みを感じ始めた。
トイレの個室にこもって袖をまくってみると、三本ある大きな傷の真ん中の傷、それも手首付近で小さくて丸い点のようなものが動いている。
皮膚の下、ミミズ腫れの中を、小さな虫が移動しているようにも感じる。
自分で言っていて気持ち悪いが、その形容が一番しっくりくる感じ。
しかもご丁寧にアミダくじを「している」ような動き。
俺は慌ててワイシャツを脱ぎ、下着の首もとをぐいっと引っ張って、アミダくじの終点を確認してみた。
「マジか」
トイレの個室で声を出してしまったのは、終点に不気味な引っ掻き傷があったから。
それらは手前から順に『三日』『三月』『三年』と読める。
アミダくじを手首側から登って来るこの点は、これのうちのどれかに到達するのだろうか……それで、到達したら、俺はどうなるんだ?
アミダくじ的には、このままだと『三日』に到達するようだ。
三日……何が三日? まさか俺の残り寿命とか?
オカルティックな現象への不安や恐怖よりも、自分の運命を勝手に決められていそうなことへの怒りが勝った。
俺はいったんトイレを出てハサミを持ってくると、再びトイレの個室へと入る。
トイレットペーパーを多めに引き出して準備をすると、ハサミで例の点をほじくり出そうとした。
すると例の点は、長い傷を進まずに何もない横へと逃げ、結果的に新しい短い傷が増えた。
進行を邪魔すると、結果を変えられるのか?
じゃなくて。
俺は、得体の知れないナニカが自分の皮膚の下を這いずりまわっているのが許せないんだよ。
傷を大きくしたくなかったから、恐る恐るやっていたけど、今度は思い切ってやってやる!
ハサミをミミズ腫れに突き立て、逃げる間もなく小さな点をほじくり出した。
これは……テントウムシ?
ガチで虫だったのか?
とはいえ、なんで?
血の中で赤黒く光るテントウムシのようなソイツは、羽根を広げ、あっという間に飛んで行ってしまった。
俺は……開放されたのか?
「せっかくチャンスをあげたのにね」
嘲りの混じった声が突如、耳の奥に響いて消えた。
どういうことだ?
俺は選択を間違えたのか?
アミダくじのミミズ腫れが、急に痛み出した。
<終>




