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お題【青臭い正義】

「うぇぇぇぇぇっ」


 優先席の方から声が聞こえたあと、びちゃびちゃと耳にしたくない音が続く。


 またかよ。


 見ると、若くて元気そうな女。真新しいスーツ姿……社会人なりたてとかか? とにかくこのバスで優先席に座るなんて、このへんのもんじゃあないな。

 まあ初めての人でも「見える」人なら間違ってもアレの前になんぞ座らないけどな。


 優先席の前にいつものアレがゆらゆらと体をゆすりながら立ち、女の顔を覗きこんでいる。

 体がパンパンに膨れ上がった緑色の……おそらく昔は人だったであろうぼんやりとした半透明のナニカ。

 びちゃびちゃびちゃっと女はまだ吐きだし続けている。青臭い藻のようなものを大量に。


「早く立てばいいんだよっ!」


 誰かが叫んだが、女の耳には届いていないのか、もしくは意味がわかっていないのか、アレに顔を間近で覗かれるまま。


 突然、バスが急停車した。


「お客さん、次のバスすぐ来るから、降りて休んだ方がいいよ」


 見かねた運転手が助け舟を出したようだ。

 女は何度も謝りながら、よろよろとバスを降りていく。


 バスが発車すると車内に漂っていた青臭さが少しだけ薄くなったが、それでも鼻の奥に腐臭がこびりついて消えない。

 アレが何なのか分からないけれど、とにかくはた迷惑なヤツなのは間違いない。アレのせいで俺は海苔を食えなくなったんだ。




<終>

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