第9話:プチ整形と美熟女
俺は『始まりの町:サンライズタウン』の広場にいる。
ここはプレイヤーがチュートリアルを終えると出てくる場所だ。
そして俺はツキ子さんと君枝さんと合流するために広場の噴水に座っている。
しばらくそうしていても早めにチュートリアルを終えたためかなかなか連絡は来なかったが、広場に現れるプレイヤーたちの顔ぶれが何度か変わったなと観察していると、ツキ子さんからフレンドコールを受けた。
「もしもし、一郎君?ちょっと時間がかかっちゃった。ごめんなさいね。色々と変更点を確認していたの。
私はキミちゃんと南の通りの方にいるんだけど、一郎君はどのあたりにいるの?」
やっと、二人と会えそうだ。
とは言え、周りには千人以上のプレイヤーが居るので二人を見つけるのは大変だ。
この噴水広場はプレイヤーのスタート地点なのだが、ものすごく広い。さすがに一万人が同時に集まるということはないのだろうが、それらを十分収容出来るだけの広さは確保されている。
「はい、俺は今噴水の縁に座ってぼんやり周りを眺めてました。南っていうのは、『South』と書かれた門がある方でいいんですよね?」
「ええそうよ。プレイヤーが多いから注意して来てね」
俺は周りにいる人達にぶつからないように注意しながらも、やはりファンタジーの世界だからか日頃見慣れている服とは全く違うこれぞ中世!と言った感じの布の服を着ている青い髪の男性や、鎧を着ている金髪の女性、ローブを纏ったお婆さん、両手斧を背負ったお爺さんなど見慣れないことにはなかなか戸惑いを覚える。
かくいう俺だって、布の服、布のズボン、革の靴、肩には弓、背には矢筒がある。そして頭には麦わら帽子。
「私達は広場から出た所で待ってるね。あと、私達の外見は結構変わってるから言っておくと、私がローブを纏った魔法使いで、キミちゃんは鎧を着てるわ。もちろんそういう格好の人が多いから、すぐにはわからないと思うから、一郎君の特徴を教えてくれる?」
「はい。……えっと、俺は麦わら帽子を被ってます」
「わかったわ。……え?麦わら帽子?」
なんとか広場を抜けて南の通りに出ると鎧を着けた女性が声をかけてきた。
「一郎君!こっちよ!」
「え?君江さんですか?」
俺に声をかけてきた女性は確かに聞き覚えのある君江さんのものだ。だが外見が結構変わっている。鉄製の鎧に腰には剣を佩き、髪型がベリーショートになっていて色も鮮やかな赤になり身長も少し縮んだように思う。大きな声では言えないが10歳位若返った感じだな。それに胸元が開いていて谷間もバッチリ見ることができる、もちろんガン見は今のところしていない。
「そうよ。どう、いいでしょ~。ベリーショートにしてみたかったのよ。現実じゃあもうずっとロングだからゲームの中では違う髪型にしたかったの。あとはプチ整形を……。
あ、隣にいるのがツキ子よ」
君江さんの作ったキャラクターの隣には緑色のローブを羽織っている長い杖を持つ女性がいる。普段通りの綺麗なツキ子さんがいるのだが髪が雪のように白い。その特徴的な髪が結い上げられていて、俺が視線を君江さんから移すと「うふふ」と微笑みながらクルリと回り、どう?と言わないまでも目で問いかけてきた。
「すごく綺麗ですよ。普通の人に白い髪なんて浮き上がっちゃっておかしな感じになるのに、ツキ子さんがそうすると不思議と似合います!」
「あらあら、恥ずかしいわ。でも私もキミちゃんも時間をかけてキャラメイクしたからね。結構自信があるのよ。この髪も光が直接当たるとキラキラ光るようになってるし、私は胸も少し整えたりしてね。綺麗なお姉さんになったでしょ?」
本当だローブの中だからあまり胸を見ることは出来ないが、いつもよりも前に出ている(?)。
「ツキ子、そんなことよりさっき話し合ったことを一郎君にも相談しなきゃいけないわ」
「あっ、そうだね。
えっと、一郎君。私達はさっきまでちょっとしたことを相談してたの。
それはね『せっかくゲームの中にいるんだから、敬語は抜きにしよう』ということなんだけど。
一郎君は嫌かな?」
そう月子さんが言うと二人して俺を見てくる。ここは承諾したほうがいいみたいだ。
「ええ、いいですけど。ただ、すぐにタメ口で話せるようになるかはあまり自信がありませんよ」
「そうよね。確かに最初は戸惑うかもしれない。でも折角こうして一緒にゲームをする事になったんだから、仲良くなりたいの。
とりあえずは、名前くらいは呼び捨てにしてね。
私は『ツキ子』じゃなくて、このゲームの中では『アルア』よ。よろしくね」
「うんうん。私も『君江』じゃなくて、『キャル』よ。キャルって呼び捨てにしてね!」
ツキ子さんが『アルア』で、君江さんが『キャル』ね。
「俺は『ソイル』です。日本語で『土壌』のことです。よろしく」
俺達はそう挨拶をして握手し、改めてゲームの開始を意識した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
とりあえず、道端ではなんだから近くのカフェ(まあそんな感じのものだ)に移動した。
とりあえず互いのステータスを見せ合ったり、これからどう進めていくのかを話しあった。
俺の『運全振り』が少し物議を醸したが、「ゲームなんだから」というアルア(ツキ子)さんの言葉で何とか収まった。
しかし、俺のかぶっている麦わら帽子に及ぶと彼女も気になるようで、チラチラとこちらを伺っている。
「やっぱり、この麦わら帽子は気になりますか?」
俺がそう聞くと二人は頷き、先を促した。
「これは、チュートリアルのあとにもらえる『チュートリアルボーナスの金賞』で貰えたんです」
「え~~!私なんて銅賞でHPポーション一つだけよ!アルアだって銅賞だったのに、ソイル(一郎)は金賞!?」
『チュートリアルボーナス』とは、ゲームの説明を受けるチュートリアルを終えたプレイヤーが『門出の祝い』のような形で貰えるもので、
金賞:豪華装備品
銀賞:金一封
銅賞:アイテムひとつ
以上三種類があって、上から3個・10個・9987個となっている。
俺は偶然かそれともステータスの『運』の値のおかげか金賞を引き当てた。
そしてその豪華賞品というのが、
『黄金麦の麦わら帽子』
:装備者の運を+5上昇
農業系スキルの獲得経験値を上昇する
これは、結構便利な様な無くても困らないような、余りパッとしない装備だ。それに町中を麦わら帽子を被って歩くというのも割と恥ずかしい。
「きっとソイルの運の高さのおかげだと私は思うよ。このゲームの『運』の重要性は結構高いの。私が直接関わったわけじゃないから断言はできないけどね」
「まあ私もアルアも『運』は上げてないから、そのせいで銅賞だったのかもね。でもソイルが貰った装備って完全に畑作用のものよね。ということは金賞当選者によって貰えるものは変わるってことになるけど……まあそれは仕方ないのか。
それでアルア、これからどうする?」
なんだか今にでも戦いに行きたいって感じのキャル(君江)だが、オレとしてはまだ街を見てみたい。
「そうね、私もレベル上げに行きたいところだけど、ソイルはどうしたいかしら?」
「俺はもう少し町中を見て廻りたいな。でも二人がモンスターを倒しに行きたいなそうしてもいいと思うよ。集まる時はコールを入れてくれればいいしね」
「よし!じゃあ、私達は『南の山』に行くことにしましょう。あそこには鉱物が少しは落ちてるみたいだし、アルアのアクセサリー作成に使えるでしょ?それに薬草なんかもあるって話だから、回復系のアイテムを私が作ったりも出来そうだからね」
こうして一時的に一人になった俺は特に目指す場所があるわけではないので、ぶらりと町を散策してみることにした。