第6話:ノーパンタイツと美熟女
『スキャンを開始します』
俺がカプセルに横になり、蓋が閉められると機械的な声がそう告げた。
『スキャンを完了しました。これよりキャラクターメイキングを行うため、VR空間へと移行いたします』
機械の発する「キーーン」という甲高い音が聞こえるのと同時に、俺は自分の体がどこか遠くへと向かっていくような浮遊感を感じた。
『VRへの移行を完了いたしました。どこか体に異常を感じました場合はご報告ください』
「いや、異常は感じないよ」
VRに再現された俺の姿は、銀色のタイツ以外は普段と変わらないようだ。これから『the Great Journey Online』での自分自身となるキャラクターを作っていくんだな。
『了解いたしました。また、万が一ご本人様が気付けていない体調不良をこちらで感知した場合には、必ずお知らせいたしますのでご安心ください。
わたくしはキャラクターメイキングのご案内をせていただきます、サポートAIの『ナビ』と申します。それではこれよりキャラクターメイキングを開始いたします。お手元に現れます透明な板をお取りください』
俺はナビに言われたとおりに目の前に現れた板を手に取った。
『そちらの板は、プレイヤーがゲーム内でステータスを呼び出した際に現れるメニューと同一のものです。ゲーム内ですと各種操作するために使用することになりますが、今回はキャラクターメイキングの設定を行うために使用していただきます。では画面上の案内に従いキャラクターネームの決定からお願い致します』
それから俺は色々とナビに聞きながら、なんとか名前と外見を決めた。
Name:ソイル
これは日本語で『土壌』という意味の英語で、農家の俺にはピッタリの名前だと思う。
そして俺が操作することになるキャラクターの外見は、身長や体型をイジることはしていないが、髪型はパーマを掛けた様な今風の茶髪にした。なんだかそこら辺にいる大学生っぽくなったが田舎者にしては中々の冒険でもある。
『第一段階の設定の完了を確認いたしました。これよりステータスの設定及び、スキルの選択に移ります』
ちなみに、ナビに俺のキャラクターについて感想を聞いてみたりもしたのだが「そういったご質問には返答いたしかねます」という答えだった。
ステータスとスキルか、これに関しては説明書も読んだしツキ子さんから色々アドバイスも受けている。彼女によると別に戦闘の事を考えたスキル構成にする必要などはなく、生産をしたいならそうしてもらってなんの問題もないということだ。
ツキ子さんが選択しているスキルの構成は、火魔法と風魔法の二つがメインで攻撃型魔法使いプレイをするんだそうだ。優しいイメージの強いあの人からはちょっと想像できない設定ではあるが、今までの自分とは違う何かをゲームの世界で表現するのも一興かも知れないな。
「スキルってこんなにあるのか?」
俺は表示されたスキルの一覧を見てナビに聞いた。
『はい。上位スキルを除いても100以上あります』
「そこからプレイヤーは自分で決めるのか?」
『はい。多くのプレイヤーはキャラクターメイキングの前に、どのようなプレイをするのかおおよそ決めておられます。ですから、一覧は眺めるだけという人もいらっしゃいました。剣を使って前線で戦いたいという方は、『両手剣』、『片手剣』そして『筋力強化』や『体力強化』など方向性に合うスキルを選ばれます。生産系の方になりますと、自分が作りたいと考える『~作成』、『器用強化』ですとか『鑑定眼』といった選択をなさいます。それと、生産系とは言えモンスターを攻撃するためのスキルは序盤の内は必要になると思えますので、収得しておいたほうがいいでしょう』
「わかった。しばらく考えてみるよ」
俺はそう答え一覧を見ながら、自分がこのゲームの中でどのような生活を送りたいのか、そして自分にどのようなことができるのかを考えた。
『はい、私も時間をかけて選ばれるようにオススメいたします。ただいまホームズⅢを使用されていますので、現実世界ではまだ5分ほども経過していないと思いますので、ごゆっくりどうぞ』
そうか、VRと現実とでは時間の流れが違うんだった。
武器関係のスキルにはこれと言って面白そうなものがなかった。しかし生産系スキルの中で少しこれはと思うものがあった。
『畑作』、『畜産』の二つだ。
農家をしている俺にとっては馴染みがあるものだが、果たして『剣と魔法の世界』でこんなスキルを収得するプレイヤーがいるのかな?
そう考えると、誰も使わないようなスキルを使ってプレイするというのも面白そうだ。
そのように考えながら一覧をスクロールしているとまた面白そうなのがあった。
『テイム』といって、モンスターを従属させることができるらしい。だが、その成功率は1万匹に1匹ほどという説明が書かれている。使用法は相手を弱らせスキルを使用する、とあるがその後に『プレイヤーの工夫次第で他にもやり方がある』ともある。
試行錯誤をして極めていくというのも中々にそそられる。もしかしたら、『畜産』のスキルでモンスターを繁殖させたりすることができるのかもしれない。
つらつら一時間ほど考えて決めたのが、
『弓』『畑作』『採集』『テイム』『罠作成』の五つだ。
採集は、なにか採集した際にボーナスが着くことが稀にあるというもの。
罠作成は仕掛けにかかった獲物をテイムできそうだったし、畑を作るなら害獣が出るかもしれないからだ。
攻撃系スキルが弓というのは少し心もとないが、猟師としてはなかなか心惹かれるものがあった。狩人なんかは弓を使っているイメージがあるしな。
「ナビ、もういいぞ」
俺はスキルの選択が終わったので、次はステータスを決めるために声をかけた。
『確認いたしました。後ほど再設定をするかどうかの確認が有りますので、ご心配はいりません。それではステータスの設定に移ります』
『ステータス』
HP:100/100
MP:20/20
ちから:20
身の守り:20
すばやさ:10
魔力:10
器用度:10
運:5
StPt:10 Pt
これらが基礎ステータスとなるそうだ。
本来ならレベルアップした際に得られるステータスポイントが10P与えられているから、これを割り振ってゲームスタート時のキャラクターが完成する。しかし俺はこれと言った特徴のあるキャラクターではないから、特化させるべきものもない。ものは試しとHPに1ポイント振ってみた。
HP:125/125
このように、HPは1ポイント毎に25上昇した。
さらに他のステータスでも試したところ、HPとMPは1ポイントで25上昇。ほかは1ポイントに付き5の上昇だったのだが、『運』の値だけは1づつの上昇だった。
『運』:ゲーム内の様々な事柄に影響する
とだけ記されている。
これでいいか。別に力もいらないし、弓で撃つだけなら防御も考えなくてもいい。すばやさは早く動けるだけみたいだし、魔法も使わない。器用度については必要になることがあるかも知れないが、
そのうちあげることにしよう。
それで最終的にはこのような事になった。
HP:100/100
MP:20/20
ちから:20
身の守り:20
すばやさ:10
魔力:10
器用度:10
運:15 (+10:StPt10消費)
StPt:0 Pt
まあ、運を上げたと言ってもたったの10しか上がってはいないので、目に見えて効果があるとは思えないのだが、いままであまりゲームをプレイしたことのなかった自分にとって、こういう形でゲームを始めていくというのがなんとも新鮮に感じられた。すごいワクワクしている。
「ナビ、ステータスの設定も終わったぞ。もういつでもプレイできそうだよ」
『確認いたしました。それでは最終確認となります。
[ステータス]
Name:ソイル
Level:1 Next 0/100
HP:100/100
MP:20/20
ちから:20
身の守り:20
魔力:10
すばやさ:10
器用度:10
運:15
StPt:0 Pt
[スキル]
弓:Lv1
畑作:Lv1
採集:Lv1
テイム:Lv1
罠作成:Lv1
SkPt:0 Pt
以上がソイル様のゲームスタート時のキャラクターということでよろしいでしょうか?これが最終確認ですので、再設定することができなくなります。よろしいですね?』
「ああ、いいぞ」
結構な時間をかけて考えたものだから、おかしな点はないと思う。
一応向こうに戻ったら、ツキ子さんの意見も聞いてプレイし始めてから直していけばいいだろう。
『ではこれにてアカウント登録及びキャラクターメイキングを終わります。カプセルから出ましたら、係員よりメモリースティックをお受取ください。それではあなたの旅の無事を祈ります』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「うふふ、おかえりなさい一郎君。どこか調子の悪いところはないかしら」
ツキ子さんが優しく俺を迎えてくれた。
彼女の言葉に従い、体をほぐしながら特に変調がないことを確かめた。
「なんだか……あっという間でしたよ。夢を見ていた感覚というか、少しの間寝ていたみたいです」
感想というか、体にゲーム内での経過時間に見合った疲労が蓄積されていないので、それが違和感として感じられるんだろうな。
「あなたねえ、何があっという間でしたなのよ!本当にあっという間だったわ。まだあなたがカプセルに入ってから五分経たないくらいよ」
そう乱暴に言ったのは壁にもたれて座っている君江さんだ。
「そうね。キミちゃん(君江)の言うとおり、一郎君がVRに入っていたのは3分と37秒だけよ」
「へ~、本当に時間の流れが違うんですね!技術の進歩はすごいな」
そう感嘆しながら俺はカプセルを出た。もちろん全身銀色タイツという格好でだ。
「……あらあら」ツキ子さんはそう言って口を手で抑えた。
「あなたって、ほんとに若いのね」君江さんはそうこぼして、俺にタオルを強く投げてよこした。
「あ~~~!」
俺はなんとかタオルを受け取り、
なぜだか元気になっている、ある部分を隠した。(朝起ちは朝だけ起きるわけではありません)