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第5話:置かれたパンツと美熟女

 離れに設置されている『ホームズⅢ』の一つに電源が入れられている。これは俺がアカウントの登録とキャラクターメイキングを行うためにツキ子さんが準備したもので、彼女によれば昨日の内にゲーム会社に連絡を取り専用の施設でなくとも問題ないようにしてくれているのだとか。

 カプセルは大人が一人で寝るのに十分な大きさがある。実はカプセルである必要はなかったそうなのだが、ゲーム会社の人間の強い要請によりこういう形状になったのだそうだ。

 そして、カプセルに入りアカウントを登録するわけだが、ツキ子さんがカプセルに入ろうとする俺に一つの風呂敷包みを手渡した。


「なんですかこれ?」


「体のスキャンが行われるから、一郎君はこの中に入っている専用の服に着替えてもらわないといけないの。私達は部屋の外にいるから大丈夫よ」


 そう言い残しツキ子さんと君江さんは、離れと母屋をつなぐ渡り廊下に出た。


 専用の服って、だいぶ本格的なんだな。どれどれ……。



 駄目でしょ、これはだめでしょっ!!

 パッツパツ!もうパッツパツ!全身が締め付けられる。なんか変な方向に進んじゃいそう……。

 どんな繊維が使われているのかわからないが、風呂敷包みには銀色の全身タイツといった感じの服(?)が入っていて、俺は今それを何とか着ることが出来た。

 だけど……これパツパツだっ!

 なんとかならないのかこれは、なんとも危険なのが股間の部分だ。

 一般の日本人よりも少し大きい俺の男性自信がかなり『もっこり』としている。

 俺がオドオドしながらどうしようか迷っていると、廊下から声がかかった。


「どう?ちゃんと着れたかしら。もしどうしても難しいのなら私が手を貸すけれど」


 ツキ子さんがそう声をかけてくれたのだが、これを着るのを手伝うなんて、失礼ながら女性としてどうなんですか?


「あ、大丈夫です。……えっと」


「なによ?あなた一人で服も着られないの?」


 この声は君江さんのようだ。

 着れはしましたけどね、着てからが中々に問題なんですよこいつは。


「ツ、ツキ子さん!ちょっといいでしょうか?」


 俺はそう言ってから、引き戸から顔だけを出した。


「あら、どうしたの一郎君?」


「はい。その、ゴニョゴニョ……」


「え?……あ、そうね、ごめんなさい気づかなくて。いまタオルを持ってくるから待っててね」


 オレから話を聞いたツキ子さんはいそいそと母屋の方へと向かった。

 残った俺は君江さんになぜか睨まれていた。


「どうしたのよ?なんで顔だけ出してるの?」


 彼女はどうやら俺がどんな服を着ているのか知らないようだ。


「はぁ、えっと、少々問題が発生しまして」


 俺がもじもじしながらそう言うと、彼女は更に興味をひかれたようだ。サドッ気があるのかも。


「え?なによ、見せてみなさい。私も協力してあげる!」


 君江さんが無理矢理引き戸を開けようと、戸に手をかけた。


「ダメです!ダメ!開けないで」


 三十前の男と、四十前の女で戸の引っ張り合いが始まった。


 開けなさい!

 ダメです!

 気になるじゃないのよ!

 ダメですったら、やめてください、警察呼びますよ!

 何言ってるのよバカ!

 ここを開けられると、俺の心の扉が閉められちゃいます!

 わけわかんない!


 押し合い引き合いしていると「がたッ」という音と共に戸が外れ、もともと戸があった空間には見つめ合う俺と君江さんが残った。




◇◆◇◆◇◆◇◆



「おまたせ。バスタオルを持ってきたから使ってね」


 なぜかタオルを取ってくるだけで五分もかけたツキ子さんが戻ってきた頃にはなんとか引き戸をもとに戻し、顔を真っ赤にした君江さんも平常心を取り戻していた。


「ありがとうございます」


 俺はそう言ってタオルを受け取り、股間が隠れるように巻いた。

 危機を脱し?なんとか落ち着いた俺は二人を中に入れた。


「それじゃあ、ちょっと説明するわね」


 ツキ子さんによると、俺が着ているこの服は、より正確にプレイヤーの脳波を捉えるための物のようだ。実際はどんな効果があるのかは彼女も知らないらしい。

 カプセルに入りスイッチが入れられると自動的にスキャンが開始され、生体データを照合しプレイヤーのアカウントが同期される仕組みなんだそうだ。

 あとこんな田舎で回線がちゃんと確保されるのかも心配だったけど、この家は大手の通信会社と特別な契約をしているそうで「一般の家庭とは隔離された回線を回してもらっているから大丈夫よ、うふふ」だそうだ。



「キャッ」


 俺がツキ子さんの話を聞いていると、窓辺に座っていた君江さんが可愛らしい悲鳴を上げた。

 なんだ、と思って見ると、君江さんの視線の先には俺が履いていたパンツがある。



「「「……」」」



 気まずい沈黙が屋内を包む。

 部屋の外ではアブラゼミの鳴き声が響いている。

 空には仰ぎ見るのも大変なほどの積乱雲……


「あ、すいません」


 俺はなんとか声を絞り出した。するとツキ子さんがか細い声で言った。


「一郎君……。下着も脱いじゃったの?」


 


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