第1話:朝の農作業と美熟女
俺の名前は『村上一郎』という、この年で二十八歳で職業は農家だ。
農家という仕事は一見したところ難しくなさそうに見えるかもしれないが、詳しく見てみるとこれがまた厳しい。
町中を軽トラックで走るのはなんか気恥ずかしいし、草刈りのための鎌の扱いに慣れてしまっている自分がなんか嫌だし、土を掘り起こすための鍬なんて物まである。もちろんこれも小さい頃から使っている。
普通の人はなかなか見ない物だろうけど、一輪車だってフラフラしないで上手に扱える。
この仕事のタイムスケジュールとしては、朝早くから畑での収穫や田圃の見廻りに行き、昼前には帰ってきて昼寝する。そして夕方にもまた見廻りに行く。夜は次の日のためにすぐ寝なくてはいけない。
なんとか無理をして作れる時間といえば、昼~夕方までだ。
そんな俺の両親は俺が生まれた頃には東京でサラリーマンをやっていたんだそうだ。だというのに「子供をより良い環境で育てたい」とかいう完全なる自己満足を果たすためなのか、母方の実家である『田舎の農家』に移住した。二人は祖父に農業を習いながら畑を耕したり田んぼで米を作って、文字通り血と汗と涙を流しながらも俺を育てくれた。
そのおかげかどうかはわからないが、俺は病気ひとつすることもなく健康に育つこと“は”出来た。
俺の地元は田舎と言ってもそこらにあるような田舎ではなく、車に乗ってれば猿やらイノシシ、それと狸に他の小動物とかが色々いる本物の田舎だ。そのため高校卒業後は家業を手伝いながら祖父に命じられ猟銃所持の免許や狩猟をするための免許、あと罠を仕掛けるのにも免許がいるためその試験も受けた。
何故俺がそんな免許をとる必要があるのかと言えば、前述の『害獣』共を狩るためだ。奴らは農家が丹精込めて作った作物を手当たり次第に喰らいやがる。だから俺の様に免許を持った猟師が銃や罠を使って害獣駆除をするのだ。しかも最近は近隣の猟師の人数が急激な減少傾向にあるので、月に何度か猟友会や知り合いの農家に「カラスが出て困るから撃ってくれ!」「鹿がいた撃ってくれ!」「キジが食いたい撃ってくれ!」「腰を痛めた、助けに来てくれ!」とかいきなり呼ばれる事が多い。田舎では人付き合いが大切だから断りきれずに軽トラックを運転して向かうしかない。
もちろん実家の農家なんて継がずに家を飛び出して都会暮らしをする事だって出来た(かも知れない)。だけど気が付けば両親が耕してきた畑を俺が受け継ぎ同じように耕している。
それにウチには合鴨農法を実践している田んぼだってあるのだ。鴨の飼育の手間は大変なものだが愛着が湧くもので大事にしている(まあ、大きくなったら食うんだけどな)。
けれど俺もそろそろ30歳になる。思えば虚しさばかりの我が人生、人に胸を晴れる功績も無い。空いた時間に楽しむ趣味も無い。友人とは気付けば電話が繋がらない。
詰んだな俺の人生、なんて思ってる。
なにか楽しみがほしい。
そんな悩みを抱える俺は今朝も畑に来ていた。
豊作となったナスを収穫し、傷がつかないように慎重に軽トラックの荷台に置いた。作業を終えた俺は助手席から水筒を手に取り冷たい井戸水で喉を潤した。そして山々の峰から顔を出した太陽にいつものように手を合わせる。
親の意向で手伝い始めた仕事なので意気込んでやり始めたなんてことはないんだが、もう10年ほど続けてきたからかこんな習慣だって出来るだろ。
自然を相手に働く人は自然とそうなるって、誰かが言っていたっけ。
ちょうど太陽が顔を出すのはうちの畑と、もうひとつ他の家の畑を挟んだ小高い山の連なる山脈からだ。
俺の隣の畑では『山田ツキ子』さんが一人で枝豆を育ている。
彼女はもうすぐ40歳になるそうだが、副業に『SE』をしているそうだ。まあSEがどんなものなのか俺にはよくわからないのだが、こんな田舎なのに驚くほど美人なのは確かだ。ツキ子さんと会話することができるこの朝の時間を、俺は何をおいても確保することにしている。
そんなツキ子さんは今朝も農家スタイルの作業着を着て畑作業をしていた。
「あら、一郎さん。おはよう。日の出を見ていたの?」
ちなみに彼女は独身だ。なんというか……肉感的な美人だ。つくべきところに肉がついていて、細いポニーテールから覗けるうなじの魅力と言ったらもう……。
「え、ええ。いつも恵みを頂いていてありがたいことですね。お疲れ様です」
見惚れていたことを悟らせるわけにはいかないので慌てて返事をした。
「うふふ、そうよね。ご先祖様の頃から変わらずに私達に恵みを与えてくれている。感謝しなくちゃバチが当たっちゃうわね」
太陽の方を振り見て、彼女はそう言った。
「はい。今年もきれいなナスがたくさんなりました。これで爺ちゃんに怒られることも無さそうです」
「あらあら、私は一郎さんはもう一人前のお百姓さんだと思うわよ。今度おじいさんに意見してあげるわ」
「わわわ、いいです、遠慮します。逆に爺ちゃんに大目玉喰らいますよ」
「そう?でも一郎さん本当に立派になったと感じるわ。最近はなんて言うのかしら、農家としての風格が出てきたわ」
農家としての風格?田舎臭いってことか?
「日に焼けた顔も精悍として格好良いし……、それに山に入るようになってもう長いじゃない?そのおかげかしらね」
おい~、そんな風に見つめないでくださいよ~。村一番の美人にそこまで言われると俺の中に秘められた眠れる狼が目を覚ましますぞお~!
「あ、そうだわ!!!
話は変わるけど、一郎さん。あなたにお願いがあるの」
「……え?」
……エロいことですか?
「一郎さん、あなた」
はい、なんなりとお聞きください!
「ゲームは好きかしら?」