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Cross Fate Online  作者: 邪夢
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第1夜【STARTING REGEND】

 未来

『今』の先にある、世界

『今』の先にある、時間


たとえ先が見えずとも、歩き続けろ


未来は、進むべきものにしか与えられないのだから


━━━━━━━━━━━━━







 もう一つの現実となった仮想世界―――



 意識はまどろみ、瞼が重く閉じられているその景色は黒に染められている。にも関わらず、その漆黒を打ち壊す程強烈な光、溶かすように淡く白熱する光が彼を大きく、何度も幾度と無く揺さ振る。

 否応無しに意識を叩き起こし、瞼を開けた彼が目にしたのは射す様な眩い白い光、それを包むような柔らかな緑に囲まれたエルフィン、大樹の街と呼ばれるフォレスティの首都であり、はじまりの街。



 是は、そんな世界に降り立ったひとりの少年の数奇な物語―――




 第1夜【STARTING REGEND】




 尖らせた耳に銀髪を棚引かせ、背に掛けられた無骨な両刃大剣を揺らしながら歩くアルマは目を爛々と輝かせ、上京宜しく田舎者の様に辺りをキョロキョロと見回している。その姿からすれば、精神年齢の低さを窺わせるものなのだろうが、生憎とこの世界の初心者はこんなもので珍しくもなんともない。はじまりであり首都であるエルフィンでは尚のことだ。

 はじまりの地であるこの街には初心者の為だけにある施設が多いとのことだが、それ以上に首都だけあって様々な施設とそれらに用のあるプレイヤー達で溢れかえっている。


 そして彼、アルマが向う先は初心者及び冒険者の支援施設。フェイトをし続ける限り世話になる冒険者ギルド。プレイヤーが最も多く溜まる場所である――アル・ブランシェ。アルマがこの世界に来てから早一週間が経過するが、それでもまだ此処で学ぶ基本的なことは多い。加えて、このゲームのレベル上げに一手に通ずるであろうクエストを受けるにもこの施設を通す必要がある為、人がいないということは決して無い。

 

 補足になるが、このゲームの主軸であるストーリーは自動で進行するものと、そうでないものに分類される。それを説明するには今一度、Cross Fate Onlineの成り立ちを、このアルマが話そう。



 このゲームのメインテーマは《種族間戦争》であり、時代背景やプレイヤーの操るキャラクターにも顕著にそれが現れている。たとえば、戦争の繰り返された星の崩壊が齎した《科学の夜》、それを受け入れたエルフの様な姿格好をしたフォレスティ、世界の最奥部へ逃げた生き残りのアルカディアと名乗る人間。再び光を取り戻し始めた世界――リ=アース

プレイヤーは二つの種族を選んでプレイすることになるのだが、テーマ通りプレイヤーがこの種族を超えて交わることはできないのである。だが、これに関してもテーマに沿ってたった一つ、唯一戦争という形において交わることが可能になっている。

 また、戦争というだけあって、中立地帯での種族間でのプレイヤーキルも許されており、それだけにリアルさが話題となって、これらの交流不可能というマイナスなイメージは薄れている。



 以上を踏まえた上で話を戻すと、直接彼ら二つの種族に関わるような時代の出来事をストーリークエストと呼び、彼らプレイヤーの意向だけでは進められないものとなっている。そして、それの補完またはレベル上げや収集や製造の為のものをメインクエストとし、こちらが個々で行えるというものになっている。


 「――となります。宜しければいつも通り、サインをお願いします」


 「え?」


 気付けば、仕切りにされた個室カウンターの向こう側、NPCであるアル・ブランシェの職員ミリスが羽根ペンを差し出していた。呟かれた黄色い声、淡い桃色のショートヘアに、銀行員のような白いブラウスと黒い制服に身を包んでいるミリスは、NPCであるにも関わらず恋をしてしまいそうな程に綺麗で可憐な雰囲気を醸し出していた。

 それに、NPCと言ってもこのゲームではプレイヤーと彼等とを見定めることは困難を極める。アルマもアル・ブランシェに初めて来た時、職員らをプレイヤーやゲームマスター等と勘違いしていた程で、恋をしてしまうものも続出し運営も苦笑いをしているという。以前までのゲームであれば二次元等とドン引きされてしまうがこの世界は確かに存在する三次元の世界であるから、そういった彼等も大手を振っているという噂もあるらしい。

 ちなみに、NPCへの恋愛は禁止されていない。NPCからも禁止されていないと運営が口を滑らせたのも記憶に新しい。


 「あ、え~っと……」


 アルマは慌てて視線を逸らすと、悟られないように脳内をフル回転させ今起きていた出来事を思い返す。当然、NPCとは見分けがつかないという事実は伊達ではなく、こんな人間らしい素振りにも対応を怠らない。


 「アルマ、話はちゃんと……――」


 目を瞑りながら嘆息を一つ、呆れ顔でミリスは口を開いて。


 「サ、サインだろ?サインだよね、サイン、サインっ……と……」


 全くこんなところまでリアルさを追求しなくてもいいのにと誰もが一度は思うだろう。が、そんなことがどうでもよくなるほどに、このリアルさというものが癖になるらしい。呆れながらも、書類に目を通しながら桃色の髪の毛を耳に乗せるその仕草一つを取っても、アルマ、否、男心を擽るものがある。


 如何にもファンタジーといった感じの羽根ペンの先にインクを付け、これまたファンタジー風の便箋に流すように自身の名前を記入していく。時折、ペン先が紙を引っ掻く音が妙に心地良く感じるのもまた、世界にのめり込んでいる証拠なのかもしれない。


 「クエストの依頼処理、ならびに、アルマへのクエスト委託を承諾しました」


 クイズ番組でありそうな景気のいいポップアップ音が鳴ると同時に、頭上にエクストラメーションマークが現れる。これは、クエスト受諾の際等に出るものであり、やはりクエストを受けたということをプレイヤーに伝える為の役割を担っている。また、これらのマークは他プレイヤーやPTメンバーであったりの差で見えたり見えなかったりと不可視の差がある。


 「リール」


 アルマが短く呟くと、右手に装着している指輪から今しがた受諾したクエスト情報らしきものが本型の半透明ウィンドウとなってずらりと現れた。タッチするか、意識的に視線をずらすことでスライドさせることができたりとゲームとしての機能性も抜群だ。

 ちなみにリールと呟くと、思い描いている自身の持つ情報がウィンドウとして表示されるが、フルリールとすると自身の持つ全ウィンドウが開く仕組みになっている。


 「それと、いつも通りの支給品となります」


 ウィンドウ越しに顔を覗かせて来たミリスの手には赤い液体の入った小瓶が数本と握られていた。それはレッドポーションと呼ばれる回復薬で、アルマを始めとした初心者らが重宝するもの。序盤に出てくるということで、文字通りの初級回復薬、一番効果は低いがその分安価となっている。


 「レコルト」


 煙化するような音を立てた赤い小瓶は次の瞬間には、それが描かれている一枚のカードとなっていた。ゲームにおいてリアルを追求する形を極めると、ゲームとしての機能性を失うことがあるがその最たる例がアイテム等においての管理や所持である。

 RPGを思い浮かべると、各キャラクターとふくろなどといったものにアイテム名が一覧となっているのを良く見ると思うが、それを生身の人間が行うとすると、戦闘はおろか歩くことすらままならないことは容易に考えられる。となると、アイテムの縮小化が課題として浮かび上がり、その解がカード化というわけだ。


 「ほんといつも助かるよ。レッドポーションが安いっていっても駆け出しのオレには高くて買い溜めなんてできないしさ」


 NPCに愚痴を一つ零しながら、アルマはカード化されたポーションをウィンドウへと仕舞い込んだ。それを見終わるとミリスは、椅子を反転させ仕事の待つデスクへと向き直した。NPCと言えどこの世界の働くOLなのだから、仕事は山の様にあるのだろう。それこそ、フェイトのプレイ人数は軽く億を超える(正確には十億)というのだから、吐いて捨てるほどと言ってもいいほどにだ。

 周りを見渡せば、同じ様な初心者から上級者らしいプレイヤーたちで溢れかえっている。中には、パーティーを組んで一緒にというものも見受けられるが、アルマはそんな彼らを尻目に席を立ち上がる。


 「さてっと」


 余談だが、アルマは人見知りでプレイし始めてから数人のプレイヤーとしか接触をしていない。苦手以上に、リアルさがそれを助長してる様で、現実の世界より緊張してしまうそうだ。


 「オレも行くとするかー」


 アルマは椅子から立ち上がると、書類に目を通すミリスの横顔を惜しみながら、同じ初心の冒険者を掻き分けアル・ブランシェを後にした。





 街を歩くアルマは雑踏の中、ふと立ち止まり考えた。


 「聖は、元気にやってっかなぁ……」


 彼が口にしたのはプレイヤー名ではなく、現実世界においてのリアルネーム。そしてその名の持ち主は、アルマ―新堂(しんどう)(かなめ)―をフェイトに呼んだ張本人であり、要の親友でもある九条(くじょう)(せい)

 アバター設定をしたときの言葉を思い返すと、やはり聖とは種族違いにでもなったのだろう。夏休みということもあってか、フェイトをはじめて一度もログアウトをしていないにも関わらず、彼のアバターと会っていないのだ。

ちなみに、フェイトの世界で一日過ごしたとすると、現実世界ではその百分の一の時間が経過していることになっている。これもまた、リアルを追求すると生じる時間弊害の一つとして課題であった。


 「ま、アイツのことだし、問題ないか」


 なんたって九条聖という人物は運動神経は抜群、それに加え秀才ときたもんだ。表向きは非の打ち所のない程イケメンでモテモテ野郎で人当たりも良いという憎たらしいヤツだが、裏ではゲーオタなのだから仮想体験とはいえ心配することは無いだろう。

アルマは無理矢理納得すると、太陽を遮る木々の黄緑に染まるエルフィンの街を歩き、雑踏の中から一つの宿屋へと辿り着いた。大通りから一本道を外れた入り組んだ路地にある古びれた宿だ。


 「此処も一週間か」


 目の前に広がるはカウンターとNPC、小さな丸椅子と円卓が数脚、上に繋がる階段。ポム・ドゥ・テル――ジャガイモと呼ばれる簡素な宿屋の一室がアルマの今のホームとなっている。

 ゲーム内での許可や功績といった類のものがあれば街に一軒家を構えることもできるが、初心者の彼にはそんな話は夢物語でしかない。また、宿屋の一室というのが、駆け出しの彼らに与えられる最初のアイテムというのだからこれもまた致し方ない。が、実際は無いと困る初心者の三種の神器の一つだろう。

 また余談にはなるのだが、宿屋やウィンドウブックの他にもアルマの腰にある小さなポーチも初期アイテムの一つだ。だが、初期アイテムといって侮ることなかれ。そのポーチの中身は無限の空間が広がりアイテムを格納することができ尚且つ自身の思ったものを選択し取り出すことができる優れものだ。


 「ふぅ……」


 机と椅子、本棚とタンスにベッド。初期配置してあるそれしかない部屋に戻ると、アルマは一目散にベッドへとダイブした。これからクエストをこなす上で休息が一番効果的な精神安定剤だからだ。仮想体験型と言うだけあり、所謂人間の欲等も存在する為、睡眠は勿論トイレや風呂も必須になる。

 天井を見上げ、これからの冒険に思いを馳せながら、その為の休息を取ろうと瞼を閉じた。


 その時だった。


 「なんだ……?」


 後頭部が叩かれた様に痛みを伴い始めては、それと同時に身体の内から発光するコイル線を思わせる白熱にも似た感覚を覚えながら何かが熱を帯びていく。

 じりじりと焼ける様な感覚にもがきながらも、プスンプスンと焼け焦げるように何かが音を立てて。


 『…殺せ…』


 瞬間、霞がかった映像がアルマの脳裏に過ぎる。場は静寂に包まれ、佇む人物が二人、硝煙が立ち上るのは戦場を窺わせ、向かい合うように立っていた。だが、生憎彼にそんな場面や記憶に心当たりは無い。

 動揺を見せるアルマに構わず、それはフラッシュバックする様に、一枚絵を切り貼りしたような場面で意識に流れ込んでくる。訳も判らずそれを意識の中でじっと見詰める。


 『止めろ……』


 微かに聞こえてくる名前にも覚えはない。見るからにゲーム内での出来事のようだが、こんなクエストを攻略サイトで聞いた事も見た事もない。初心者プレイヤーだからといって、知識が無い訳ではない。攻略サイトやらなんやらを一通り目を通してやってきているのだから、心当たりが無いのなら何なのか。

 それでも、今のアルマには目の前の楽しさを追及するほうが先決だった。瞼を閉じ、これからのお楽しみに備えて再び暗黒の意識へと潜り始めた。その上下左右前後がわからない世界に身を委ねれば、脳裏に浮かぶ一幕に後ろ髪を引かれながらも意識は眠りへとついた。


 そして――


 「そんじゃ、行くかな」


 大剣を携え、銀髪の少年は緑光の世界を突き進む


 ピピッ……━━━


 静かな機械音が、横で鳴る。


 少年は、気付かない


 《ストーリークエストNo.0》


 カタカタカタッ……━━━


 羅列される文字は彼の目に止まる事無く刻まれ続けて。


 少年は、知らない


 《LastChapter――絆》


 《全プレイヤーの収容を確認、クエストを受諾、これよりパラダイムシフト移行準備に突入――》


 《シフト移行に伴い、これよりCrossFateOnline以下CFOは、全ての管理及び管轄より逸脱――》


 虚空に刻まれる文字は何を意味するのか。


 少年は、逃げられない


 《現行及び来るべき世界において、見定めるべきもの――全決定権を選定……次のものに設定》


 《フォレスティ - アルマ》


 《アルカディア - ヴェルゼ》


 中空の文字は、その者の名を刻む。


 運命という名の、悪戯


 悪戯という名の、運命


 《クエストの開始及び進行を確認》


 避けられぬ運命が今、動き始める


 行く末に、何があるのか誰も知らない


 《全ては―――》


 少年は、立ち上がる







―アルカディア・首都リガルド―


 降り注ぐ熱波に負けることなく、止まる事無く動き続ける人の大河。何処を見ても、人、人、人。現実世界と同じ見た目の人間たちがファンタジーの世界でお馴染みの剣や鎧、ローブ等に身を包んで闊歩する。

 此処はアルカディアサイドが首都リガルドと呼ばれる帝都。自然の地を開拓し文明を築くアルカディアは中世と現代科学とを合わせた様なそんな中性的な世界観。

 

 「ふぅ……」


 体格の良い若者らしき一人のアルカディアが、兵舎らしき建物から出てくる。

 腰には長剣を差し、背には大きな盾を担いでいるが装備的に言えば初心者にしか見えないそんな出で立ち。だが、少なからずリアルの顔を追求するフェイトにおいてこのアルカディアはイケメンと言ってもいいだろう。

 黄金を思わせるブロンドの髪に灰色がかったライトグレイの瞳に整った顔立ち。初心者装備にも関わらず、兵舎から出た彼には視線が集まっていたがしかし、彼はそんな事を気にもせずに。


 「要は何処だ……?」


 溜息を一つ。空色の髪の毛を邪魔くさそうに掻き毟る。


 彼の名はヴェルゼ―――新堂要の親友、九条聖。


 彼もまた、歩き出す。


 未知なる世界へ向けて―――




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