表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Cross Fate Online  作者: 邪夢
3/53

プロローグ【Beginning of End】

よろしくお願いします。

 運命

それは、必然であり偶然

それは、偶然であり必然


全ては、誰が為に紡がれる


━━━━━━━━━




―Cross Fate Online―

仮想世界体験型オンラインゲーム

人間が繰り返した大戦の果てに荒廃した世界。

その世界で出会った二つの種族。彼らは嘗て同じ人間だった。


だが、もう交えることは無い


彼らは、再び星を巡って戦いを起こした。

夢と希望、手に入れるものは、最後に星を手にするものはどちらか。


その未来を、キミたちの手で






 「――以上で幻身体(アバター)の設定を終了します」


 頭上から降ってきた声に、少年は静かに頷きゆっくりと目を開いた。目の前に浮かぶ立ち鏡に映るはいつもとは違うもう一人の自分。それが、今から生きていく世界での自分の姿。

 銀色の髪にエルフの様に長い耳、日本人離れした輪郭に薄白い肌。それら全てが造られたものであるにも関わらず、どこかで自然とそれを受け入れる事のできる自分がいた。


 「はは……凄いな」


 期待と不安が入り混じる感情が言葉となり、広がる蒼穹に小さく響いた。今ではもう、自身と一体となったその身体を確認するべく探る様に触り始めては、これから降り立つだろう世界と巡り往く冒険に胸を躍らせる。

 そんなことを考えつつも新しい身体の調子を見るように手足を動かすが、違和感が無かった。先程造られたものとは思えない程に違和感というものが無く、その出来すぎたリアルさが逆に違和感を感じさせた。

 その様子を何処かで見ているであろう彼女――ゲームの初期設定進行役を勤めてこのアバターを造り出してくれた彼女が微笑みながら語りかけてきた。


 「如何ですか?アバターの調子は」


 「イイね、本物の身体みたいだ」


 さっきからそんな単語しか思い、発せないほどに、この世界は、否、このゲームは想像を超えていた。仮想体験型と謳われるこのゲームだが、最早現実世界と何ら遜色の無い感覚だった。


 「その幻身体(アバター)は貴方の根源、生命子――云わば貴方の魂から創られたものです。文字通りの意味での半身……いえ、もう一人の貴方なのですから」


 誇らしげに声を弾ませて、彼女であろう青白い発光体が彼の周りをくるくると旋回する。掌ほどの小さな光は目の前で静止すると感嘆な声で呟いた。


 「純粋な生命力を感じます。これ程淀みの無い澄んだ魂も珍しい。きっと貴方はこの世界で名を残す冒険者になるでしょう」


 たとえどんな人からであろうと褒められるというのは悪くない。むずがゆいものを感じた彼は奥歯でそれを噛み締め、だが、そんな自分に思いを馳せる少年はもう既に、その世界の住人となっていた。

 見れば、ログインするまでの私服とは違い、ゲームや漫画にある如何にも初心者といった無地のチュニックに簡素で雑な茶色い革の鎧を身に付け、背中には不釣合いな大剣が提げられていた。ただ、それですら、少年の目には輝かしい勇者の剣に見えたに違いない。そう、目が語っているのだ。


 「その装備もお似合いですよ」


 良く見れば、光の中で小さな羽をはためかせながら笑みを浮かべる妖精がいた。まるでそう、ピーターパンのティンカーベルのような、ありきたりのファンタジーと同じシルエットの彼女。


 「お世辞は多すぎると覚めるぞ?」


 鏡の前で装備を確認する銀髪の少年の周りを見守るように廻りながら言うと、少年は苦笑しながら言うも、最早有頂天の彼の言葉に説得力は無かった。


 「もう、本当ですよっ」


 少しむきになった声は少年のそれよりもずっと説得力があり、彼は「それならいい」と笑みを浮かべて背の剣に手を伸ばしていた。通常なら持ち上げる事もできなさそうな大剣をひょいと構える時点で此処は仮想世界なんだと認識させられた様だったが。それでもお構い無しに、剣を振るう度に恍惚感に満たされている様だった。


 「では、最後に貴方の名前を聞かせて下さい」


 思い出した様に、少年は剣を振るうのを止めては熟考した。まさかこの世界で本名を名乗るわけにも行かないし、何より世界観をぶち壊しにしてしまう。だが、少年にはもう一つ使い慣れて呼ばれ慣れた名が在った。


 「アルマ。オレの名前はアルマ」


 それがネットゲームで使われてきたもう一つの名前。特に何かを元にしたわけでもないが、それでもこの名前に愛着はあったし、もし使われていたらという懸念もあったがどうやら杞憂だったらしい。


 「アルマ、良い名前ですね」


 そう言うと、妖精は青白い燐光を撒き散らしながら螺旋を描き空を昇って行く。ファンタジーによくある一場面が目の前で起こっている事に、少年は再び感動し視線で追いかける。


 「これで全ての初期設定は完了です。お疲れ様でした」


 直後、銀髪の少年――アルマの足元に魔方陣が現れ輝きを放った。金属の甲高い音と共に光の奔流の中心に柱が現れては外側で声が響く。


 「これより貴方を下界(リ=アース)へ転送します」


 「ちょ!?や、ちょっと友達がいるんだけど、そいつと会える!?チュートリアルもしてねぇーし!!」


 「安心してください。転送先ははじまりの街であり、そこで他のNPCたちが追々説明します。また、種が同じであれば友人もそこにいるでしょう」


 慌てふためく少年は装備をあっちこっち指差し、それを楽しげに宥める彼女とのやり取りはゲームであってゲームの様には見えない不思議なものがあった。


 「なるほど、了解したよ。後はこっちで何とかする。色々とさんきゅーな」


 成程と掌を叩いたアルマはにっこりと笑っては礼を告げた。妖精は謙遜して言うと、それではと一区切り。


 「貴方に女神の祝福があらんことを……━━━」


 その祈りが途切れると同時に白く淡い光が視界を多い尽くし浮遊感へと包まれた。薄れ往く意識の中、少年アルマはこれから降り立つであろう世界へと心躍らせ、鼓動を高鳴らせ、在るがままに身体を委ねた。


 仮想体験型オンラインゲーム-Cross Fate Online-


 それが、このゲームのはじまり


 数奇な運命の物語の幕が今、上がる――――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ