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一章 小田桐小学校

あれから数日経ち、春休みも開け、今日は待ちにまった始業式だ。

僕を迎えてくれるかのように、道の脇には桜が満開に咲いている。

吹雪く花びらは通学路を歩く僕にたいしてのエールのようにすら思える。

新しい友達や先生、校舎、校庭がどんなふうなんだろうと想像するだけで胸が躍る。

学校にいくというだけでこんな気持ちになったのは初めてだ。

友達を作りたいと考えるだけで、こんなにも世界が違って見えるなんて。

ある意味ここから僕の人生は作られていくのかもしれない。

そう、これは僕の青春の一ページを綴る第一歩だ。

……あー、ダメだ。そう考えたら少しだけ緊張してきた。

転校なんてもう慣れっこだと思っていたのに、手に汗がにじみでているのがわかる。

ダメだ、あまり緊張していると声が出なくて、暗い奴のレッテルを貼られてしまう。

今のうちに発声練習だけでもしておこうかな。

都会と違って、田舎の通学路は人が少なくて閑散としている。こんなことをしていても奇行と見る人はいないだろう。


家から二十分ほどして小学校に到着。

門扉の脇の表札には『宝殿市立小田桐小学校』と書かれている。

二階建ての横に広く伸びた大きな校舎だ。割と新しい造りをしているように思える。

でも今時二階建てなんて珍しいな。僕が今まで通ってきた学校はどれも最低三階まではあったのに。

僕は正門を抜け、来客口からあがり、上履きに履き替えて、職員室の前へとたどり着いた。

扉を軽くノックし、失礼しますと断りながら入る。

「このたび、こちらに転校してきた神居海斗です。校長先生はいらっしゃいますか」

敬語の使い方なんてまるで分からないけど、それらしく繕って挨拶をすると奥の机に座っていた年配の男が立ち上がりこちらにやってきた。

「やあ、君が転校生くんだね。私が校長の敷島琢磨だ。よろしく頼むよ」

手を差し出されたので僕もすかさず、よろしくお願いしますと握手で反応した。

フランクな先生だ。大人にある威圧感がない。こちらの緊張を察して気を使ってくれているのだろうか。

「さて、始業式まであまり時間が無い。君のクラスと担任の先生だけ今のうちに紹介しておこう。柴山先生」

呼ばれて近くの事務机から、名前を呼ばれた女性が返事をしてこちらへとやってきた。

女性は校長に軽く会釈をしたあと、

「初めまして、四年一組担任の柴山幸といいます。音楽の先生をしています。これからよろしくお願いしますね」

と、お辞儀をしてきた。

こちらこそ、と僕も頭を深く下げる。

「うむ、自己紹介も終わったことだし、さっそく体育館へ移動しよう。ついてきたまえ」

校長先生が職員室で号令を出すと、部屋にいた先生たちが一斉に名簿を持って退室していく。

僕も二人の先生の後ろに付きながら、渡り廊下を歩く。

女の先生が担任なんて一年生の時以来だ。優しげで母性を漂わせている。

子持ちなのかな。歳は三十代前半といったところか。

アジアンテイストな彫りのある顔立ちで落ち着いた雰囲気もあり、えもいわれぬ魅力を感じる。

こんなふうに柴山先生を特徴を挙げているうちに、体育館の入り口までやってきた。

僕はここで待機しているように言われ、校長先生と他の先生は中へと入って行った。

少しだけ覗き見ると、どうやら僕以外の在校生はすでに入っており、整然とした並びで体育座りをしている。

「……え、なにこれ。ちょっと待って」

思わず声が出てしまった。


明らかに生徒数が少なすぎるのだ。


数にしておよそ六十人くらいか。

どういうことだろう。まだ全校生徒が集まってないのだろうか?

いや、そんなことはない。もう始業式恒例校長先生の長い話が聞こえてきている。

だとしたらこれが全学年の総勢?いやいやいやいやいや。

こんな学校初めて見た。これが田舎の学校ですか。初っ端から驚かされましたよ。

へぇー、こりゃすごい。なるほど、ならば校舎が二階建てというのも頷ける話だ。

『それでは転校生を紹介します』

ヤバ、もう僕の出番!?どうしよう、呆気にとられて話そうとしていたこと全部忘れた!

え、ちょ、まて、落ち着け、落ち着こう、そうだ、落ち着こう…し、しんこきゅ――

『神居海斗くんです。どうぞ』

ちょ、せめて深呼吸する時間をください!ああ、ちょ、何?後から何か優しげな先生らしき人が背中をおしてくるんだけど!?

ま、ま、ま―――――、あーっ!


僕は体育館の中央へと投げ出された。

ここまで来るのに緊張して足と手が一緒に動いていたんじゃないかと、少し気になる。

……うわー、見てるよ。全校生徒が。一年生が、二年生が、三年生が、四年(略)

そうだ、いつもどうりやればいい。もう慣れているじゃないか、こんなこと。

ま、まずは自己紹介だ。

「――――――ッ……!」

まずい声が出ない!どうした僕、いつもの僕はどこにいった。

いや、落ち着け、もう一度。

「―――っ…あ……」

『ん?どうした?もしかして緊張してるのかな?』

校長先生、余計なことを!!ほら、生徒がざわめきはじめたじゃないか。

どうする…アイ×ル……じゃなくて!

『はい、ありがとうございましたー』

えー!ちょ、もう少し時間を…。ふぅ…。

肩を落として僕は体育館の隅へと移動した。

仕方ない…。これはもうクラス挨拶にかけるしかないや。


『校歌斉唱』

新緑映える 小田桐校

桜並木を 友にして

精気奮い立つ 我が学び舎よ

いざ我ら 大志を抱き

たくましく うるわしく

共に育まん この大地で


若草萌ゆる 小田桐校

流るる小川を 心として

闘志みなぎる 我が学び舎よ

いざ我ら 夢を求め

うちつれて かがやいて

共に磨かん この大地で


霞にそびえる 小田桐校

蛍の光を 友にして

英気養う 我が学び舎よ

いざ我ら 仲間と歩み

たすけあい わらいあい

共に学ばん この大地で

小田桐小学校校歌

メロディーは勝手に作曲してあげてください←。

歌詞は僕の出身校を骨組みにし、ところどころ改変してあります。

ちなみに皆さんは、自分の母校の校歌、未だに歌えますか?

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