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ロケット

 ロケットが飛んだ。私の目の前で。そしたら眉毛が焦げちゃった。だって、目の前で飛んだから。それでも私はロケットを見続けた。だんだん小さくなっていくピカピカな物体は、人の手で作られた。誰だかは知らないけれど、何処かの誰かの努力の結晶。私はその結晶を見て、


「わぉ。未確認飛行物体!未確認飛行物体!」


と、阿呆のふりをして叫んだ。そしたら私の右の方、方角でいえば南の方、


「おーい!そこの君!あれは、ロケットって言うんだよ!」


という叫び声が聞こえてくる。


「知ってるに決まってるだろ。阿呆。ふざけただけだ。阿呆。」


と思いながら、私は、呟くように「右向け右!」と自分自身に言うと、声のする方を見た。眉毛のない顔で。そしたらものすごく離れた場所に、まんまるハゲの会社員らしき人が突っ立っている。


「おーい!そこの君!あれは、ロケットって言うんだよ!」


彼のアタマは、遠くでピカピカ。まるでロケット。わぉ、ロケット。ザ・ロケット。


私は、叫び続ける彼を無視しながら、あのアタマは誰が作ったのであろうか。などと考えている。


「ピカピカなロケットを作ったのが人ならば、ピカピカなアタマを作ったのも人なんじゃないか?」


「いいや、それは違うさ。だって、アタマは飛んで行かないだろ?」


「そうか、お前はアタマがいいな。ただ、それは本当か?アタマが飛んでく可能性はゼロなのか?」


「ゼロだろ。そんなもん。ジェット的な、エンジン的なもんがねえからな。」


「そうか、お前はアタマがいいな。ただ、外から見えないだけかもしれないよ。もしかしたら食道を通って胃のあたりにジェット的な、エンジン的なもんがあるんじゃないか?」


「ねえだろ。医者がレントゲン写真を指さして、「ここが、ジェット的な、エンジン的な部位なのですが、特に異常はありません。実に健康です。」などと言っているのを聞いたことがあるか?ないだろ?」


「そうか、お前はアタマがいいな。ただ、・・・」


などと会話していたのは私一人。永遠に続きそうな会話であった。しかし、その素晴らしきエンドレストーキングを途中で止めた奴がいる。言うまでもなく、第二のロケット。ピカピカアタマである。彼はいつの間にやら、私の方へ近づいてきていたらしく、気付いた頃には真横にいた。どうやら走ってきたらしく息を切らしている。ハゲロケットの「ぜいぜい」だか、「ぜえぜえ」だかの苦しげな呼吸は、実に気持ち悪い。オエッである。私は、呟くように「右向け右!」と自分自身に言うと、右向け右運動をした。ロケットが突っ立っている。

 

 少し時間が経ち、楽になってきたのであろう。ロケットの呼吸が落ち着いて、また、


「おーい!そこの君!あれは、ロケットって言うんだよ!」


叫び声が聞こえた。私の目の前で。そしたら鼓膜が破れちゃった。だって、目の前で叫んだから。それでも私は、彼を見続けた。


 ロケットは汗をかいていた。

 

 私はそれを見て、腹を抱えて笑った。


「ロケットが汗かいてら。ロケットが汗かいてら。」


と、大笑いした。今世紀最大の笑いだ。とさえ思った程である。ふと、ロケットを見てみると、どうした事であろう。彼もまた、腹を抱えて大笑いしているではないか。


「とうとうアタマが可笑しくなったか。」


と思いながら冷笑的な目をしていると、どうやら彼は何か言っているらしかった。唇が動いているけれど、何も聞こえない。阿呆ロケットのせいで鼓膜が破れたのだから当たり前である。私は目を細めて、唇の動きを凝視した。読唇術である。そして私は読み取った。読み取って、驚愕した。確かに彼は、


「ロケットが汗かいてら。ロケットが汗かいてら。」


と、叫んでいるのである。


 今世紀最大の笑いを体験した私は、確かに、汗をかいていた。しかしながらロケットは何故、私を見て「ロケット」と叫んでいるのであろうか。不思議だった。気味が悪かった。理解できなかった。理由が知りたくて知りたくて我慢できなくなった私は、汗まみれのロケットにオエッっとなりながらも、彼の肩をトントンと叩き、


「何故、私をロケットと呼ぶのだ?」


と、問い詰めた。怒鳴るように問い詰めたが、自分の声も聞こえなかった。虚しかった。


 そしてまた私は、彼の唇の動きを凝視した。読唇術パート2である。そして私は読み取った。読み取って、また、驚愕した。驚愕パート2である。私は何度も何度も自分の目を疑ったが、確かに彼は、こう言った。





「眉毛ピカピカ。ロケットみたい。」

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