夢日記
わかりにくいお話です。でも、昔の自分から目をそらさないためにも直しません。
病院というのはどうしてこうも高圧的なんだろう?
消毒液のにおい、真っ白な壁、乾いた看護士の笑顔など、全て鼻につく。
白という色は生命の象徴らしいが、全ての色を飲み込んでしまう悪意のある色に思えてしまう。
それもこれも、俺の頭の中が病んでいる証拠だろう。
「橋本さーん、中にお入りください~」
看護士が言う。乾いた笑顔だ。口は笑っているが、目は笑っていない。
「くそやろう」
目が言っている。そういった目で見下ろされるのは、耐えられない。
しかたなく、俺は看護士の目を突いた。看護士が悲鳴をあげる。目をおさえて悶える看護士を見下ろしている俺がいる。
そういう妄想をたっぷり楽しんでから、俺は部屋に入った。
相変わらず真っ白な壁、メガネをかけた白髪交じりの男がペンを回していた。
男はペンを回しながら、顔もあげずに言う。
「橋本さん?」
「ええ」
「それで、周りの人間が常に自分のことを馬鹿にしているように思えるんですね」
「ええ」
「そういった考えが日に日に強くなる」
「ええ」
「簡単に言うと、鬱症状の入り口ですね」
「はぁ」
「気持ちが滅入ってしまうと、被害妄想が強くなってしまうのですよ」
「はぁ」
「薬、出しときますね。気分を上げる薬です。」
「はぁ」
「あ、後、夢日記ですね」
「え?」
「夢日記をつけるといいでしょう」
「え?」
「夢ってのは深層心理の現れですよね。その夢日記をつけて自分の内面がどうなっているのかを把握するのです」
「はぁ」
「専門家が見てもいいのですが、毎日つけることで傾向がわかりますよ」
「はぁ」
男はペンを回しながら、一度も顔を上げずにまくし立てた。俺は、頭を机にたたきつけ、ペンをのど元に刺してやる妄想を4回ほど繰り返して、部屋を後にした。
その日の夜から夢日記をつけることにした。
4月3日(水)
俺は佐藤という男になっていた。
夢の中の俺(佐藤)は非常にいい男のようだ。
紳士的に振る舞い、出すぎず引きすぎず、友人も多い。
家族は母に父、妹が一人、猫が一匹。
朝食を食べているところで目が覚めた。
なんだか気分がいい。
4月4日(木)
昨日の続きを見たいと思いながら眠りについたら、うれしいことに続きだった。
佐藤である俺は、ある一流会社の営業マンのようだ。仕事は順風満帆。28歳でバリバリ仕事をこなす反面、趣味であるサーフィンに精を出す。
休日の朝、早起きして愛車に板を積み込んでいるところで目が覚めた。
4月5日(金)
毎日つけることに意味があるのだろう。
佐藤である俺には彼女がいる。同じ会社の受付嬢だ。しっかりとした会社なので、社内恋愛くらいでゴタゴタいう奴はいない。むしろ公認といってもいいくらいだ。
今日も夜にはレストランに行って夕食を食べた。その後、いつものようにホテルへ向かう。どうやら佐藤である俺は、ラブホテルではなく、シティホテルを使うようだ。
酒に酔った俺達は、いちゃつきながらホテルの廊下を歩き、部屋になだれ込んだ。後ろ手に鍵を閉めたところで目が覚めた。
4月6日(土)
昨日はいいところで目が覚めた。悔しいので、今日は一日中ベッドの中で寝ることにした。
俺達は、デートを繰り返した。俺は仕事も恋も趣味も、全て順調だった。そのうちに、彼女は言った。
「子どもができたの」
俺は、驚かなかった。むしろうれしかった。俺は理恵を愛していたし、理恵も俺を愛してくれていた。自然と、
「結婚しよう」
という言葉が出た。理恵は答えないかわりに泣いていた。笑顔でただ泣いてくれた。
4月7日(日)
今日は理恵の家族と初の顔合わせだった。11時に彼女の家に行く約束だった。お酒を出すから、と言われていたので歩いて彼女の家まで行った。
彼女の家が見えて、理恵が玄関の前に立っているのが見えた。俺は笑顔で手を振った。
すると、理恵の顔が引きつった。笑顔ではない、いつも俺に向ける顔ではなかった。
そこに車が止まった。中から男が降りてくる。理恵が男に手を振った。なにやら、二人で話している。この男はなんだろう?どうして理恵と親しげに話しているのだろう?
理恵は男の手を引いて、玄関に入ろうとした。
「ちょっと待てよ」と俺は言った
「お前は誰だ?」と男が言った。
理恵は男の腕にしっかりとしがみついている。どうして知らない男の腕なんかにしがみついているんだ?
「警察呼ぶぞ」と男が言った。男はメガネをかけていた。
「どっか行ってよ」と理恵が言った。どこかで見たことある目だった。
「くそやろう」そう言っている目だった。
俺は理恵の目を突いた。理恵は悲鳴をあげ、その場にうずくまった。
男の髪をつかみ、地面にたたきつけた。メガネは砕けた。ふと、男の胸ポケットに万年筆があるのを気づいた。
俺は、万年筆を男ののどに突き立てた。
ごぼごぼと音を立てて、男ののどからは血が吹き出た。
4月8日(月)
夢は見なくなった。俺の鬱病も回復したのだろう。
手は血だらけだった。
インターホンが鳴った。
「橋本さん、警察です」
おかしいな、橋本って誰だ?俺の名前は佐藤なのに。
パタンと日記帳を閉じ、俺は玄関まで歩いた。
今までお話と傾向は似ていますよね。
読み手の事を考えないオナニー短編だと、自分でも思います。
でも、課題が見つかっただけよしとしています。