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あんたじゃダメだ!

作者: ササデササ
掲載日:2026/07/03

ある日、喫茶店で私は湯気の立つ湯飲みを前にしていた。


濃いお茶だった。


一口飲んで、「今日はずいぶん濃いな」と思う。

でも、それだけだ。渋みもまた、その日のお茶の機嫌なのだろうと受け入れる。


別の日には、少し色の淡いお茶が出てくる。


「ああ、今日は優しい味だ」


それもまた悪くない。


コーヒーも同じだ。


深煎りをこれでもかと濃く淹れた一杯は、夜更けの話し相手になるし、少し薄めに入ったコーヒーは、朝の寝ぼけた頭にちょうどいい。


濃くてもいい。

薄くてもいい。


飲み物というものは案外、こちらが歩み寄れる。


そう思っていた。


あの日までは……。


夏だった。


冷蔵庫から取り出したカルピスの原液を、誰かがすでに作ってくれていた。


氷の浮かぶコップを手に取り、一口飲む。


……薄い。


あまりにも薄い。


甘さは遠く、乳酸菌飲料らしいあの優しい酸味だけが、地平線の向こうから手を振っている。


「カルピスだったもの」が水に思い出だけを残して去っていったような味。


私はもう一口飲んでみる。


変わらない。


二口目でも奇跡は起きない。


「いや、これは……」


思わず原液のボトルを見た。


責めるためではない。


確認したかったのだ。


本当にカルピスだったのかを。


そのとき、ようやく気づいた。


お茶は、お茶という世界の中で濃淡がある。


コーヒーも、コーヒーという世界の中で濃淡がある。


どちらも薄くなっても、ちゃんと自分であり続ける。


しかしカルピスだけは違う。


一定の濃度を下回った瞬間、自分という存在を維持できなくなる。


カルピスは、カルピスであるための一線を持っている。


その境界線を越えたとき、それはもう『薄いカルピス』ではない。


『カルピスを期待して飲んだ水』だ。


私は静かにコップを置き、冷蔵庫から原液を取り出した。


少しだけ注ぎ足す。


白さが戻る。


もう一度飲む。


ああ、帰ってきた。


これだ。


これがカルピスだ。


お茶もコーヒーも、人に歩み寄る。


だがカルピスだけは譲らない。


「私は私だ。この濃さで会いに来い」


そんな頑固さを、白く甘い一杯は今日も静かに貫いている。


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