⑧ 章のラストカット
玉座の間は整え直されていた。
絨毯は払われ、燭台は磨かれ、空気は甘い匂いを残したまま澄んでいる。
壇上の中央――本来なら王が座すべき位置に、円環が立てかけられている。
王子だったもの。
背もたれに支えられ、安定している。
崩れない。
傾かない。
宝石の飾りが縁に沿って光り、焼色は豪奢な金装飾と奇妙に調和していた。
背景は過剰なまでに華やかだ。
緋色の垂れ幕。
彫刻の施された柱。
天井画の天使たち。
その中央だけが、空いている。
きれいな空洞。
そこから向こう側が見える。
玉座の間の奥、赤い絨毯の延長線上に、レティシアが立っている。
距離はある。
しかし穴が額縁のように彼女を切り取る。
円環の内側に、彼女が収まる。
彼女もまた動かない。
視線が、合う。
正確には、合っているように見える。
王子にもう焦点はない。
それでも構図は完成している。
空洞は何も語らない。
だがそこにあることで、全体が整う。
レティシアは瞬きをしない。
微笑まない。
悔いも誇りも浮かばない。
ただ、確認するように見つめている。
工程は終了した。
玉座の間は静まり返る。
誰も泣かない。
誰も責めない。
誰も跪かない。
儀式は中断されたのではない。
均一に固められただけだ。
甘い香りが、ゆっくりと広がる。
空洞の向こうで、レティシアの輪郭が揺らぐ。
炎の揺れのせいかもしれない。
あるいは、湿度のせいかもしれない。
断罪は行われなかった。
温度が、正しかったからである。




