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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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第三幕|境界滞在者

リオの選択


交差帯の中央は、時間の流れがわずかに遅い。


そう感じるのは、リオだけかもしれない。


彼女はそこに立ち続けていた。


最初は数分。

やがて十分。

いまは、どれほど経ったのか分からない。


長く居るほど、感覚が研ぎ澄まされていく。


霧の圧。


それは重さではない。

触れれば消えるほどの密度。


だが、確かに押してくる層がある。


裂土の硬さ。


乾いた地面の拒絶。

踏み込めば割れるはずの張り。


二つは同じ場所にありながら、決して混ざらない。


リオは目を閉じる。


足裏に集中する。


左足は、わずかに湿りを拾う。

右足は、ひびの奥の空洞を感じる。


(違う)


同じ地面なのに、違う。


彼女はその差を、区別できるようになっていた。


境界は線ではない。


層だ。


そして彼女は、その層の上に立っている。


「……やってみる」


小さく呟く。


誰に向けてでもない。


両側へ。


リオは足を上げ、地面を軽く打った。


コツン。


乾いたようで、柔らかい音。


間を置く。


同じ間隔で、もう一度。


コツン。


さらに同じ間隔で、三度目。


コツン。


規則正しい三拍。


音は吸われすぎず、響きすぎない。


空間に残る。


霧界側。


ユラは反照の近くに立っていた。


交差帯の気配を追い続けている。


そのとき。


霧が、わずかに揺れた。


一度。


静まる。


もう一度。


さらに、三度目。


周期は一定。


偶然の乱流ではない。


「……三回」


ユラは呟く。


胸の奥が熱を帯びる。


これは自然の揺らぎではない。


リズムだ。


霧が、応じた。


交差帯中央。


リオは息を止めていた。


三度打ったあと、待つ。


霧の圧が、ほんのわずかに変わる。


一拍。


もう一拍。


そして、三度目。


地面の奥が、かすかに震える。


彼女の喉が鳴る。


「……返ってきた」


確信だった。


自然現象ではない。


同じ間隔。


同じ数。


向こうも、数えている。


境界は、遮断ではない。


信号を減衰させず、変換する。


音が圧へ。

振動が流れへ。

行動が応答へ。


リオはもう一度、足を打とうとする。


だが、止める。


やりすぎれば、偶然と区別がつかなくなる。


今は、三回でいい。


十分だ。


向こうに“誰か”がいる。


感じて、数えて、返してくる。


彼女はその場に座り込む。


境界は危険地帯ではない。


実験場でもない。


ここは、通信路だ。


霧が低く漂い、裂土が静かに支える。


交差帯は、揺れを運ぶ。


そしてリオは選ぶ。


ここに居続けることを。


境界の上で、最初の滞在者として。

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