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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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第三幕|気配の邂逅

リオとユラ


交差帯の中央は、夜になるとわずかに密度を増す。


霧は薄く層を成し、裂土のひびは黒く沈む。

どちらの世界の音も、ここでは強すぎず、弱すぎない。


リオは帯のほぼ中央に立っていた。


足元の地面は、以前よりも柔らかい。

乾いているのに、奥に湿りがある。踏み込めば割れるはずの感触が、今日はわずかに弾力を持っている。


彼女は息を吸う。


空気が、ほんの少し重い。


「……厚い」


霧が濃いわけではない。

視界は保たれている。

だが、空間そのものが、何かを含んでいるようだった。


存在の密度。


目に見えない“層”が、重なっている。


リオは目を細める。


帯の向こう側――霧界の方角。

何も見えない。ただ、白さが遠くに揺れているだけ。


それでも、感じる。


変化。


「向こうも変わってる」


独り言のはずだった。


だが言葉は、吸われずに空間へ広がる。


その瞬間。


霧界側、同じく交差帯中央。


ユラは足を止めた。


霧はいつもと同じように漂っている。

だが地面――いや、霧の下にある“硬さ”が、今日は違う。


普段なら、触れれば沈み、境界へ近づけば押し返される。


だが今は。


足裏に、確かな抵抗がある。


硬い。


それは霧界にはない感触だった。


ユラはしゃがみ込み、霧を払い、指先で下を探る。


見えない。

だが、そこに“固さ”がある。


「……そっち、動いてる」


彼女の声は小さい。


だが、交差帯はそれを拒まない。


音が届くわけではない。

言葉が翻訳されるわけでもない。


それでも。


リオは、何かが応じたことを知る。


背筋を、微かな震えが走る。


恐怖ではない。


認識。


向こう側にも、感じている者がいる。


ユラもまた、立ち上がる。


霧の流れが、ほんのわずかに方向を変える。


裂土の硬さが、わずかに振動する。


姿は見えない。


輪郭も、影も、気配の形すら掴めない。


だが、そこに“誰か”がいる。


境界は越えられていない。


足はそれぞれの側に留まり、身体は決して踏み出さない。


それでも。


一方通行ではなくなった。


これまで裂土が変わっても、霧界は閉じていた。

霧界が揺れても、裂土は応じなかった。


だが今は違う。


感じる。

応じる。

わずかに動く。


リオはゆっくりと息を吐く。


「……聞こえてる」


確信ではない。


だが否定もできない。


ユラは胸の前で手を握る。


霧が指の隙間を抜ける。


「いる」


それは宣言ではなく、発見だった。


交差帯の空気が、静かに震える。


止まりながら、進む。


越えないまま、触れる。


境界はまだ厚く横たわっている。

だが、その厚みは遮断ではなく、媒介へと変わりつつあった。


この夜。


二つの世界は初めて、互いを“存在”として認識する。


名前も、姿も知らないまま。


気配だけが、確かに交差していた。

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