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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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第三幕|甘さの再試行

若者の実験


集落の中央に、また浅い皿が並ぶ。


以前と同じ石の台。

以前と同じ三人。


だが空気が違う。


白い帯は、まだ遠くにある。

そして今日は、朝から消えていない。


若者のひとりが言う。


「今日なら」


確信ではない。

予感だ。


皿に水を張る。


水面は、わずかに重い。

光を鈍く返す。


甘味を砕く。


白い粒が、乾いた音を立てる。


ケインは少し離れて見ている。

何も指示しない。


甘味が、水に落ちる。


白は沈む。


以前と同じ光景。


だが――


底に沈んだ白が、

ゆっくりと形を失い始める。


粒の輪郭が曖昧になる。


薄く、ほどける。


「……」


誰も声を出さない。


濁る。


水が透明でなくなる。


かすかな白が広がる。


完全ではない。

底にはまだ固まりが残る。


だが確実に、溶けている。


ひとりが指を差し入れる。


持ち上げる。


滴る水が、わずかに粘る。


舌先で触れる。


「ぬるい」


驚きと戸惑いが混じる声。


甘い。


裂土で初めての拡散。


甘さが、水を変えている。


広がる。


留まらない。


若者たちの目が光る。


成功だ、と言いかけたそのとき。


皿の縁が、崩れる。


乾燥で硬く保たれていた縁が、

湿りを吸って柔らかくなる。


小さな欠けが落ちる。


水がこぼれる。


「おい」


ひとりが皿を支える。


だが石の台にも、

わずかな湿りが広がっている。


保存していた乾物の籠が、

端から湿っていく。


硬かった果実が、

柔らかくなる。


指で押すと、へこむ。


「……」


若者の顔が曇る。


甘さは可能になった。


だが硬さが失われる。


裂土は乾燥によって

形を保ってきた。


保存食は硬いから持つ。

皿は乾いているから割れない。


湿りは、それを崩す。


ひとりが呟く。


「持たないかも」


甘さは広がる。

だが、形が弱まる。


利益と同時に、損失が来る。


ケインは皿の縁を指で触れる。


柔らかい。


崩れやすい。


だが水面の白は、まだ揺れている。


消えていない。


変化は、片側だけではない。


拡散が生まれれば、

安定が揺らぐ。


若者たちは互いを見る。


成功でもない。

失敗でもない。


条件が変わっただけだ。


裂土で初めて、

甘さが広がった。


だが同時に、

裂土の硬さが揺らいだ。


変化は、利益だけをもたらさない。


それでも水は、わずかに甘いまま

皿の中で揺れている。

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