④ 物性化の描写(静かで具体的)
王子の変化は、急激ではなかった。
それは崩壊ではなく、調整に近い。
まず、頬に色が差す。
血色のように見えたそれは、やがて均一な焼色へと落ち着く。
淡く、薄く、外側から。
誰かが「お顔が」と言いかけて、やめる。
皮膚はひび割れない。
ただ艶を帯びる。
指で押せば、ゆるやかに戻りそうな質感。
しっとりしている。
王子は瞬きをする。
まぶたの裏側にも、薄い層が重なる。
血管は透けなくなる。
代わりに、断面のような線が内側に現れる。
それは流れではなく、重なりだ。
一枚。
また一枚。
時間をかけて回転させたように、均等な輪が形成されていく。
脈打つ音は消えない。
ただ規則正しく、静かになる。
骨格がわずかに軋む。
だがそれは痛みの音ではない。
芯が入る音だ。
背骨はまっすぐに整い、一本の支柱のように安定する。
肩から腕へ、指先へ。
余分な角度が削ぎ落とされる。
王子は倒れない。
崩れない。
座り込むこともない。
壇上に立ったまま、形を整えていく。
誰も近づかない。
近づく必要がないからだ。
変化は暴力的ではない。
暴走でもない。
焼成は正確だった。
外側はきちんと固まり、
内側はまだ柔らかい。
王子は息を吸う。
その胸は上下するが、空気を求めている様子はない。
呼吸は機能ではなく、習慣のようになっている。
彼は死なない。
死という言葉は、ここでは適切ではない。
王子は、しっとりする。
余計な力が抜け、
角が消え、
輪郭が滑らかになる。
声を出そうとする。
音は短い。
「……」
言葉は続かない。
だが苦悶はない。
焦りも、恐怖も、後悔も。
ただ、完成へ向かう過程がある。
最後に、首の動きが止まる。
正面を向いたまま、
美しく整った円環が壇上に立つ。
中心には空洞。
そこから向こう側が見える。
王子はもう王子という機能を持たない。
だが存在は失われていない。
そこにある。
しっとりと。
それが、この変化の正確な呼び名だった。




