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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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3/15

③ 咀嚼(転換点)

王子の口元に、円がある。


最初は光の加減かと思われた。

壇上は高く、窓から差す光は強い。錯覚は起こり得る。


しかしそれは、錯覚にしては立体的だった。


幾重にも重なる薄い層。

均一に焼かれた色合い。

中心には、きれいな空洞。


王子の唇は、その円を囲むように存在していた。


誰も指摘しない。


それが何であるか、すぐに理解できなかったからではない。

理解するより先に、場が整ってしまったからだ。


王子は続きを言おうとする。


「レティシア、君の罪を——」


言葉は出ない。


代わりに、静かな音がする。


もぐ。


広間は広い。

それでもその音は、不自然なほど正確に響いた。


王子の顎が、ゆっくりと上下する。

咀嚼の動きだ。


誰かが息を吸う。

だが、声にはならない。


王子は噛みしめるように、慎重に味わっている。


もぐ。


沈黙。


時間がわずかに伸びる。

本来であれば混乱が走るはずの瞬間。

しかし何も起きない。


王子は視線を前に向けたまま、言う。


「……甘い」


短い評価だった。


断罪の宣言でも、怒りでもない。

味についての、率直な感想。


その声は落ち着いている。

感情の揺れはない。


甘い。


それだけで十分であるかのように。


広間の誰も笑わない。

誰も叫ばない。

誰も説明を求めない。


ただ、事実がそこにある。


王子の口には年輪がある。


そして王子は、それを食べている。


未完の宣告は宙に残り、

咀嚼だけが、確実に進行していく。

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