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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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2/15

② 宣告の間(動→停止)

宣告の間は、よく磨かれていた。


床は鏡のように光り、天井の装飾は過剰なほどに荘厳だった。

中央に赤い絨毯が敷かれ、その先に壇上がある。


王子はそこに立っていた。


正面を向き、背筋を伸ばし、練習済みの角度で顎を引いている。

彼は正しい姿勢だった。

正義を宣告するのに適した角度で。


左右には貴族が整列している。

誰もが期待している顔をしている。

断罪は社交行事であり、予定表に組み込まれた催し物だ。


レティシアは絨毯の中央に立つ。


一歩も動かない。

視線も揺れない。


静止しているのは彼女だけではなかった。

場の空気そのものが、どこか準備運動を終えたあとのように、落ち着き払っている。


王子が口を開く。


「レティシア」


声はよく通った。

広間の隅まで届くよう訓練された声だ。


「君の度重なる妨害、虚偽、そして——」


貴族たちがわずかに身を乗り出す。

ここからが山場だと、全員が理解している。


「君の罪を——」


その瞬間。


王子の声は、続かなかった。


止まったのではない。

途切れたのでもない。


続くはずの言葉が、存在しなかった。


王子の口元に、円があった。


白く、幾重にも重なった年輪。

光を受けて、やわらかく輝いている。


一瞬、誰もそれを認識しない。


王子は言い直そうとする。


「……」


音が出ない。


代わりに、小さな咀嚼音が広間に落ちる。


もぐ。


やけに鮮明だった。


沈黙が広がる。

貴族の一人が咳払いをしかけ、やめる。


王子は自分の口に触れようとする。

しかし手は届かない。


届く前に、外側からゆっくりと固まり始めているからだ。


絹の衣装がわずかにきしむ。

肩から腕へ、腕から指へ、均一に色が変わる。


焼色は均等だった。


誰かが悲鳴を上げるべき場面だった。


だが、誰も上げない。


それはあまりに整っていた。


あまりに、丁寧だった。


王子はようやく一言だけ、絞り出す。


「……甘い」


断罪の言葉ではなかった。


評価だった。


その瞬間、場は完全に停止する。


物語が盛り上がるはずの地点で、熱が消える。

燃え上がるはずの感情が、均一に冷却される。


王子は壇上で、静かに円環となる。


中心には、きれいな空洞があった。


言われるはずだった罪状は、どこにも落ちていない。

未完のまま、空気中に浮かんでいる。


レティシアはそれを見上げる。


何も言わない。


未完は、過熱よりも美しい。


広間は静まり返っている。


そして、誰かが小さく呟く。


「……次第は、どうなりますか」


断罪は行われなかった。


ただ、止まった。


動いていたものが、正確な温度で、固まっただけだった。

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