11/40
③ 咀嚼の選択(転換点)
ヒロインの手のひらに、欠片がある。
薄く、均一な焼色。
断面には幾層もの線が走っている。
軽い。
だが、存在は明確だ。
彼女はそれを見つめる。
時間は長くない。
しかし、選択肢は十分にある。
捨てる。
絨毯に落とせばいい。
誰かが片付ける。
叫ぶ。
「医者を!」
「魔法を!」
言葉はいくらでもある。
泣く。
崩れ落ちれば、物語は正しい方向へ進む。
だが彼女は、そのどれも選ばない。
視線が、わずかに柔らぐ。
それが愛情かどうかは分からない。
確認かもしれない。
無意識の動作かもしれない。
説明は、与えられない。
彼女は手を口元へ運ぶ。
止める者はいない。
止める理由も、まだ定義されていない。
欠片が唇に触れる。
一瞬、光を反射する。
そして、消える。
もぐ。
広間に響く音は、先ほどと同じだ。
王子が立てた音と、同じ高さ、同じ湿度。
沈黙。
咀嚼はゆっくりだ。
急がない。
味わうように、確かめるように。
誰も動かない。
息を呑むという行為すら、控えられている。
音が止まる。
彼女は飲み込む。
何も起こらない。
少なくとも、すぐには。
広間の空気は変わらない。
王子は壇上にある。
欠けた縁は、そのままだ。
ヒロインは顔を上げる。
まだ何も言わない。
沈黙が、均一に広がっていく。




