僕は、ハンマーを持って君に会いに行く
家中のハンマーを探した。確か工具箱にあったはずだ。
昨年に亡くなった祖父がホームセンターで買ったハンマーが。
大と中と小小とどれがいいかで「中」を選んで買ってきた。
なぜそれを、と言いかけてやめた。きっと真ん中がいいと思っている。
僕の記憶が正しければ、弟が持っていたはずだ。
小さい頃に工作で使うからと買ってもらっていたハンマー。
イスでも作るのかと問うたら時計を作ると言い出した。
トンテンカン、隣の部屋から聞こえたものだった。
完成した柱時計は祖父の家で眠っている。
そういえば、妹もハンマーを持っていなかったか?
中学の時にハマったゲームのキャラクターが持っているからって買ってもらったハンマーが。ただそれは柔らかいぬいぐるみで、ふわふわだった。
これで人は殺せないねって笑っていた、そうだね。
名前は忘れた、ハン・マーにしておこう。
おかしい、見当たらない、どこにも。この家にはハンマーが存在しないのか。
最後に見たのはいつだったか、思い出せない。
僕の勘違いだったのか、なら仕方がない、買ってこよう。
コンビニには無いか、スーパーにも無いか、やはりホームセンターか、なら車で行く。十分で着く。
着いた途端に気がついた、財布が無い、家に置いてきたようだ。痛恨の極み、取りに戻った。
家の前に誰かが居た。買い物から帰ってきた母だった。
あらおかえり、と陽気に母は笑っていた。
母さん、ハンマーどこにあったっけ? 家中探したんだけど。
尋ねると、今買ってきたところよ、と手提げのエコバッグからハンマーを取り出した。
奇跡の母と褒めると、そんな事より面接どうなったの、もう一週間経つじゃない、と返された。
そんな事よりハンマーだ。
手に入れたハンマーを持って、君に会いに行く。
その日の夕方、アパートの二階に住む若い女性が頭を殴られて玄関で倒れていたところを発見されたそうだ。
物騒な世の中だ、他人事ではないな。
チャイムを鳴らすと君が出てきた。「お待たせ」
寛ぎモードのキミはスウェット姿で「やっと来たね」とニッコリ笑って出迎えてくれた。
「はいこれ。見当たらなくって。たまたま、母親が」
「ありがとう。入って、ゆっくりしよう」
僕は促されるままに中へと入った。
このハンマーを、君に。
かた焼きせんべいは、よく割れた。
ご読了ありがとうございました。
スラスラの神と称して天の声が、きらきらとハンマーの、二編の話を産み出した。
どうしたらええの(遠い目)。




