【余韻が残る3分小説】あの音を、まだ覚えてる
「とうもろこしの粒って、何個あると思う?!」
薄暗い教室の中、得意げな笑顔を私に向けてくるコイツが嫌いだ。
この広い世界に知らないことなんて山ほどあるに決まってる。
楽しそうに毎日調べては私に問題を出してくる。
「必ず偶数になってるんでしょ。」
だから私は死ぬ気でうんちくを覚えた。
そうすることで私はうんちくに勝った気になれるのだ。
「えー!それも知ってるの?!」
「萌が知ってることは私も知ってる。」
「本当に瑞希はすごいね!」
そう言って、いつもクシャっと笑う。
一生懸命うんちくを探してる時は、そこにしか気持ちが行かないことも知ってる。
だから私は死ぬ気で覚えた。
早く飽きればいいのに。
綺麗に整列した机と椅子をわざと壊して2人だけで話しているこの時間は、少しだけ私を悪戯に自由にしてくれる。
だけど世界は優しくない。
スピーカーから流れる大音量の機械音は、センチメンタルな気持ちを現実に戻させる。
「瑞希、帰ろっ!」
萌が机からジャンプすると風に混ざり甘い香りが鼻を刺激する。
「そのシャンプー本当にいい香りだよね、私も変えてよかった。教えてくれてありがとう、萌」
下校の鐘に紛れ微笑む。
聞こえてるのだろうか。
帰り道は割と平和で、電柱の並ぶ商店街を通り抜け、踏切を渡り、その先のY字路でバイバイする。
コロッケのいい匂いに負けて2人で半分こするときもあった。
1日の中で1番好きな時間だった。
「鐘の音って世界でいちばん好き!なんかさ…“変わらないもの”って感じがして好き。私がどんな日でも、ちゃんと鳴ってくれるから。」
目の前が白く、黒くなっていくのを感じる。
頭は冷たく、次第にこめかみから熱くなってくる。踏切の鐘が鼓動と一緒に鳴り響く。
「だったらさ、」
五時を知らせる、夕焼けチャイムが鳴った。
色んな鐘の音が鳴ってるよ、ほら。
これが好きなんだよね?
好きなものになれてよかったね!
ずっと知らないふりをしていた。
警鐘はとっくの昔から私の中で鳴っていた。
今、あの音は、私にとって――
世界で、二番目に好きなものになった。




