第3章 22:洞窟内の安全確認
村の外れに口を開ける洞窟は、冒険者や採集者にとって欠かせない場所だった。
鉱石、薬草、時には希少な素材──。
しかし同時に、崩落や落石という牙を隠し持つ危険な場所でもある。
「最近、奥の通路が不安定らしいんです」
村からの依頼を受け、冒険者は洞窟の前に立った。
今、彼に求められるのは力任せの突破ではなく、“安全を見極める目”だった。
洞窟に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。
天井から垂れる鍾乳石の隙間を水滴が落ち、一定のリズムで地面を打っていた。
冒険者は壁に手を当て、ひび割れの感触を確かめながら慎重に進む。
崩れかけの通路には簡易的な支柱を設置し、落石の危険がある場所には目立つ注意表示を残す。
その途中、岩陰で小動物の巣を見つけた。乾いた苔と布切れで作られた、慎ましい住処だ。
「……ここは避けて通ろう」
彼は足音を抑え、自然を壊さぬように作業を続けた。
人の安全と、自然の営み。その両方を守ることも、冒険者の役目。
洞窟の点検を終えた帰り道、ギルドに立ち寄ると、受付のレベッカが声をかけてきた。
「ちょうどよかった。
今度は湖の調査をお願いしたいんです」
村の中央に広がる湖。その中心部で水流が乱れているという。
冒険者は小舟を借り、静かな水面へと漕ぎ出した。
櫂が水を切る音が、湖に穏やかに溶けていく。
中央に近づくにつれ、水面にわずかな歪みが現れた。渦と呼ぶには小さいが、確かに不自然だ。
舟の先端に身を乗り出し、冒険者は水流を観察する。
湖底に沈んだ木片や石が流れを乱しているのを確認し、ネットでひとつひとつ丁寧にすくい上げていった。
そのとき、水面にぷかりと浮かぶ小さな木箱が目に入った。
「これは……?」
濡れてはいるが、しっかりと封は残っている。
彼は箱を回収し、村へ持ち帰った。
研究所では、クリスキンが興味深そうに目を輝かせた。
「古い箱ですね。慎重に開けましょう」
中に入っていたのは、一冊の手記だった。
湖のほとりで暮らしていた誰かの記録。
日々の出来事、季節の移ろい、そして洞窟や湖を生活の一部として見つめていた想いが、静かな筆致で綴られていた。
ページをめくるごとに、冒険者は気づかされる。
洞窟も湖も、ただの資源の場所ではない。人と自然の記憶が積み重なった、生きた世界なのだと。
夕暮れ、赤く染まる湖面を眺めながら、冒険者は小舟を岸へ戻した。
洞窟の安全は確保され、湖の流れも元に戻った。
「安全を守ることも、冒険の一部なんだな」
呟きは、静かな水面に吸い込まれていく。
自然と人の暮らしをつなぐ、その役目を胸に刻みながら、彼は次の依頼へと歩き出した。




