第3章 21:怪しい影の正体を突き止める
村の夜は、いつもより重く静まり返っていた。
森の奥で「怪しい影を見た」という報告が相次ぎ、村人たちは不安に駆られていた。焚き火の火が揺れる集会所で、長老チータは深くうなずき、ひとりの冒険者に視線を向ける。
「恐怖は、分からぬものから生まれる。
だからこそ──
冒険者に依頼しよう」
冒険者は静かに頷き、快くその任務を引き受けた。
戦闘よりも観察と判断が試される仕事だと直感していた。
月明かりの下、冒険者は懐中灯と双眼鏡を手に、森の奥へと足を踏み入れる。
昼とはまるで違う表情を見せる森は、鳥のさえずりの名残と、木の葉が擦れ合う低い音に満ちていた。
湿った土の匂い、どこか甘い香草の香りが鼻をくすぐる。
彼は闇の中で無闇に進まず、立ち止まり、耳を澄ませた。
影が動いた──。
そう見えた瞬間、懐中灯の光が照らし出したのは、風に揺れる太い枝だった。
枝葉が重なり合い、まるで何者かが蠢いているように錯覚させる。
さらに奥へ進むと、低く重い足音。
冒険者は息を潜め、双眼鏡を構える。そこにいたのは、森に迷い込んだ大きな野生動物だった。
警戒心は強いが、村を襲う気配はない。
月明かりの下で草を食む姿は、むしろどこか無防備ですらあった。
冒険者はその場に留まり、夜が深まるまで観察を続けた。
リスが木の実をかじる仕草、フクロウが音もなく羽ばたき、獲物を狙う一瞬の緊張。
彼はそれらをノートに書き留め、森の生き物たちの生活のリズムを感じ取っていく。
時間をかけて森と向き合ううち、恐怖の正体は徐々にほどけていった。怪しい影とは、自然が織りなす光と動きの重なりであり、音の正体は生き物たちの営みそのものだったのだ。
翌朝、村に戻った冒険者は、集まった村人たちに静かに語った。
「影の正体は、風に揺れる木々と、森に生きる動物たちでした。危害を加える存在ではありません」
ざわめきが安堵へと変わり、村に穏やかな空気が戻る。
長老チータは深く頷き、香草の束を差し出した。森に棲む動物の種類に応じた報酬だという。
冒険者はそれを受け取りながら、森で過ごした時間を思い返す。
「恐れる前に、真実を確かめることが大切なんだな」
剣を振るうだけが冒険ではない。
観察し、理解し、耳を澄ますことで見えてくる世界がある。そう再認識した一日だった。
そして今日もまた、森は変わらぬ声で、生きる者すべてを包み込んでいた。




