表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/70

 第3章 19:森の植物や花の成長を記録する

 


 森は、季節の移ろいを静かに語っていた。


 朝露を含んだ土の匂い、木漏れ日を受けて揺れる若葉。

 その中を、冒険者は一歩一歩、確かめるように歩いていた。


 今回の依頼は、森の変化を記録すること。

 植物や花の成長を観察し、村の暮らしに役立てるための調査だ。


 彼は腰を下ろし、膨らみ始めた花のつぼみをスケッチ帳に写し取る。

 細い枝先から芽吹く新緑、葉脈を透かして光る若葉──

 それらは、確かに「生きている」と主張していた。


 蝶がひらりと舞い、小鳥が枝を渡る。

 森は静かだが、生命の気配に満ちている。


「自然を知ることは、暮らしに直結するんだな」


 無意識にこぼれた言葉に、彼自身がうなずいた。


 森の奥へ進んだとき、ふと足を止める。

 木陰にひっそりと、淡い光を宿す薬草が咲いていた。希少種だ。


「……これを、育てられたらどうなるだろう?」


 だが、彼には家がない。

 拠点らしい拠点といえば、ギルドくらいのものだった。


 村へ戻り、受付のレベッカに相談すると、彼女は少し驚いた顔で笑った。


「裏庭、空いてるわ。

 好きに使ってください」


 その言葉に、胸の奥が温かくなる。


 ギルドの裏庭の片隅に、小さな畑を作った。

 鋤で土を耕し、石をどけ、森から持ち帰った薬草の種を一つずつ丁寧に植える。

 じょうろで水を注ぐと、湿った土の匂いと若い緑の香りが立ち上り、心がふっと緩んだ。


 数日後。


 土の表面を押し上げるように、小さな芽が顔を出した。

 それを見るたび、戦闘でも報酬でもない、別種の達成感が胸に広がる。


 やがて完成した観察記録と、育ち始めた薬草は、村の農作業や薬の調合に役立ち、村人たちは口々に感謝を伝えてくれた。


 森を知り、育て、守る。

 その循環の中に、自分も確かに存在している。


 手元には、育てた薬草の種と、ささやかな経験値、そして目には見えない「育てる楽しみ」というバフ。


 冒険者と森とのつながりは、その日、ほんの少し――だが確かに、深まったのだった。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ