第3章 19:森の植物や花の成長を記録する
森は、季節の移ろいを静かに語っていた。
朝露を含んだ土の匂い、木漏れ日を受けて揺れる若葉。
その中を、冒険者は一歩一歩、確かめるように歩いていた。
今回の依頼は、森の変化を記録すること。
植物や花の成長を観察し、村の暮らしに役立てるための調査だ。
彼は腰を下ろし、膨らみ始めた花のつぼみをスケッチ帳に写し取る。
細い枝先から芽吹く新緑、葉脈を透かして光る若葉──
それらは、確かに「生きている」と主張していた。
蝶がひらりと舞い、小鳥が枝を渡る。
森は静かだが、生命の気配に満ちている。
「自然を知ることは、暮らしに直結するんだな」
無意識にこぼれた言葉に、彼自身がうなずいた。
森の奥へ進んだとき、ふと足を止める。
木陰にひっそりと、淡い光を宿す薬草が咲いていた。希少種だ。
「……これを、育てられたらどうなるだろう?」
だが、彼には家がない。
拠点らしい拠点といえば、ギルドくらいのものだった。
村へ戻り、受付のレベッカに相談すると、彼女は少し驚いた顔で笑った。
「裏庭、空いてるわ。
好きに使ってください」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
ギルドの裏庭の片隅に、小さな畑を作った。
鋤で土を耕し、石をどけ、森から持ち帰った薬草の種を一つずつ丁寧に植える。
じょうろで水を注ぐと、湿った土の匂いと若い緑の香りが立ち上り、心がふっと緩んだ。
数日後。
土の表面を押し上げるように、小さな芽が顔を出した。
それを見るたび、戦闘でも報酬でもない、別種の達成感が胸に広がる。
やがて完成した観察記録と、育ち始めた薬草は、村の農作業や薬の調合に役立ち、村人たちは口々に感謝を伝えてくれた。
森を知り、育て、守る。
その循環の中に、自分も確かに存在している。
手元には、育てた薬草の種と、ささやかな経験値、そして目には見えない「育てる楽しみ」というバフ。
冒険者と森とのつながりは、その日、ほんの少し――だが確かに、深まったのだった。




