第3章 18:湖の水質を改善する
村の外れにある湖は、かつて「鏡の湖」と呼ばれていたという。
空を映し、風を映し、人の心さえ映すほど澄んでいた──
少なくとも、村人たちの記憶の中では。
だが最近、その湖は鈍い色に濁り、魚の姿もめっきり減っていた。
水面近くで息苦しそうに漂う水生生物の様子に、村人たちは不安を隠せずにいた。
その調査と改善を依頼され、冒険者は湖へと足を運ぶ。
まず向かったのは湖の上流だった。
森の中を抜ける小川は、かつては穏やかに流れていたはずだが、今は一部が不自然にせき止められている。
湿った土の匂い、剥き出しになった根。
小さな土砂崩れが起き、流れを乱しているのは一目で分かった。
「これが原因か……」
冒険者は静かに頷き、作業に取りかかる。
崩れた土砂を取り除き、流れを緩やかに整え、水辺には新しい水草を植える。足元の水路には小石を並べ、再び崩れないよう丁寧に安定させていく。
自然は不思議なもので、ほんの少し手を入れるだけで応えるように姿を変える。
水は次第に澄み、流れに透明感が戻っていった。
数日後、湖を訪れると、その変化ははっきりと現れていた。
水面の下では魚たちが軽やかに泳ぎ、水草の間を小さな生き物たちが行き交っている。
「少し手を貸すだけで、自然は元気を取り戻すんだな」
そう呟いた冒険者は、胸の奥に静かな満足感を覚えた。
だが、依頼はそれで終わりではなかった。
今度は湖の中心部に異変があるという。
冒険者は小舟に乗り込み、櫂を静かに水へ沈めた。
湖面は穏やかだが、中央に近づくにつれ、わずかな水流の乱れが感じ取れる。
「この辺りだ。渦が生まれている」
舟の先端から身を乗り出し、水面を凝視する。微細な波紋、逆向きに引かれる流れ。
原因を探るため、冒険者はネットを使って湖底を慎重に探った。
沈んだ木片や石を一つずつすくい上げ、流れを妨げるものを取り除いていく。
そのときだった。
水面に、ぽつりと浮かぶ小さな木箱が目に入った。
「……これは?」
回収された箱は古く、水を吸って重みを増していた。
岸へ戻り、研究所で丁寧に解体すると、中から一冊の手記が現れる。文字はかすれていたが、そこにはこの湖にまつわる記録と、名もなき人物の想いが綴られていた。
かつてこの湖で遊んだ日々。
大切な人と過ごした時間。
そして、湖を守りたいと願った気持ち。
ページをめくるたび、冒険者の脳裏には、今はもういない誰かの姿が浮かぶ。
湖はただの水たまりではない。
人の記憶を抱き、時を越えて語りかけてくる、生きた存在なのだ。
夕暮れ。
赤く染まる湖面を見つめながら、小舟を岸へ戻す。水は澄み、流れは穏やかだ。
その奥底には、確かに物語が息づいている。
今日の発見と想いを胸に刻み、冒険者は静かに湖を後にした。
自然を守ることは、過去と未来をつなぐことでもある──
そんな確かな実感を抱きながら。




