第3章 17:野生動物の食料を確保する
森から吹き抜ける風は、どこか落ち着かない気配を含んでいた。
村の掲示板に貼られた依頼書には、短いながらも切実な報告が記されていた。
──森の野生動物たちの食料不足が確認された。
冒険者は静かに頷き、装備を整えると村を後にした。
森の奥へと足を踏み入れるにつれ、いつもなら耳にする小鳥のさえずりや小動物の気配が、心なしか乏しいことに気づく。
地面には木の実が少なく、草も季節外れの冷え込みのせいか、元気を失っていた。
冒険者は腰を下ろし、一本一本の草、落ちている種子、わずかに残った木の実を慎重に見極めていく。
すべてを持ち去るのではなく、森全体に行き渡るよう、安全な場所を選びながら分けて配置する。
その手つきは、戦場で剣を振るう時とはまるで違い、穏やかで丁寧だった。
やがて、枝の上から小鳥たちが様子をうかがうように集まり始め、草むらからは小動物たちが恐る恐る姿を現す。
彼らが木の実をついばみ、草を食む光景を見て、冒険者は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「自然に手を貸すことも、命を守る大切なことなんだな……」
その言葉は、誰に聞かせるでもなく、森に溶けていった。
村へ戻る途中、冒険者は異変に気づく。
草地は色を失い、畜舎から聞こえる牛たちの鳴き声も、どこか元気がない。
村長アルファは畜舎の前で腕を組み、深い皺を額に刻んでいた。
「この冷え込みのせいで草が育たなくてな……。
このままじゃ、冬用の保存飼料が足りなくなってしまう」
冒険者は森での出来事を思い出し、静かに頷いた。
「高栄養草を集めて、干し草に加工できれば、なんとかなるんだが……」
その言葉を待つまでもなく、冒険者は丘へ向かった。
冷たい風が吹きつける中でも、根を張り、しぶとく育つ丈夫な草が確かにそこにあった。
一本一本を束ね、背負い袋がいっぱいになるまで集める。
村へ持ち帰ると、乾燥小屋では村人たちが総出で作業に取りかかった。
干し草が乾き、ほのかに甘い香りを放ち始めた頃、アルファ村長が目を見開いて声を上げる。
「おお……!
見事な仕上がりだ!」
完成した飼料が畜舎に運び込まれると、牛たちは待っていましたと言わんばかりに食べ始めた。
その夜から、村ではいつもより多くの新鮮なミルクが搾れるようになり、食卓には笑顔が戻った。
森では野生動物たちが命をつなぎ、村では人と家畜が安らぎを取り戻す。
その両方に関われたことを思い、冒険者は夕暮れの村を見渡した。
剣を振るうだけが冒険ではない。
自然と寄り添い、命の循環を守ることもまた、この世界で生きる者の大切な役目なのだ。
そんな確かな実感とともに、達成感が胸いっぱいに広がる一日だった。




