第3章 16:村人の悩みや相談を解決
村に朝の光が差し込むころ、冒険者は村の掲示板の前に立っていた。
そこには討伐依頼ではなく、素朴な文字で書かれた相談事が並んでいる。
──畑の作物の手入れを手伝ってほしい。
──壊れた農具が直らない。
──子どもの世話で手が足りない。
冒険者は剣ではなく手袋をはめ、鍬を持ち、村人たちの間を歩いた。
一緒に土を耕し、
折れた柄を修理し、
泣きじゃくる子どもをあやす。
相談者と顔を突き合わせ、どうすればよくなるかを考え、少しずつ問題をほどいていく。
やがて、村に漂っていた張りつめた空気がほどけ、笑顔が増えていった。
「ありがとう」
「助かったよ」
その言葉一つひとつが、胸に静かに積もっていく。
「小さな手助けでも、人の生活を支える力になるんだな」
そう実感した午後、村の広場で騒ぎが起きた。
「ま、待ってくれ!
それは僕の……!」
旅する音楽家チャゲルアが、空を仰いで叫んでいた。
突風が吹き抜け、彼の大切な手書きの楽譜が、白い鳥のように舞い上がっていく。
「このままじゃ演奏できないんだ……
お願いだ、冒険者!
探すのを手伝ってくれ!」
楽譜は三枚。
一枚は丘の上、木の枝に引っかかり。
一枚は川辺に落ち、森の動物の巣へと運ばれ。
最後の一枚は、村外れの風見塔の裏、影の隙間に吸い込まれていた。
冒険者ははしごを担ぎ、丘を登り、風に揺れる枝から紙を掴み取る。
森では、手土産のおやつを差し出し、警戒する小動物たちと心を通わせた。
風見塔では、静かな影に身をかがめ、指先で紙の端を引き抜いた。
三枚の楽譜を揃え、広場へ戻ると、チャゲルアは目を輝かせた。
「ありがとう!
さあ、ページを並べよう!」
順に置かれた紙の上から、まるで風そのものが立ち上がるように、旋律が浮かび上がる。
チャゲルアが弦を鳴らすと、軽やかな音色が広場を満たし、村人たちは足を止めた。
畑を直した老人も、子どもを抱いた母親も、皆が音楽に耳を傾ける。
それは、今日という一日を包み込むような、やさしい風の曲だった。
「この曲は君に捧げよう」
チャゲルアは微笑み、言った。
「名前は……《風の旋律》だ」
小さな困りごとに手を貸し、失われかけた楽譜を拾い集めた一日。
冒険者は音楽に包まれながら思う。
──誰かの日常を支えることが、こんなにも温かい物語になるなんて。
こうして村には、笑顔とともに、新しい旋律が残ったのだった。




