表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/70

 第3章 16:村人の悩みや相談を解決

 


 村に朝の光が差し込むころ、冒険者は村の掲示板の前に立っていた。


 そこには討伐依頼ではなく、素朴な文字で書かれた相談事が並んでいる。


──畑の作物の手入れを手伝ってほしい。


──壊れた農具が直らない。


──子どもの世話で手が足りない。


 冒険者は剣ではなく手袋をはめ、鍬を持ち、村人たちの間を歩いた。


 一緒に土を耕し、

 折れた柄を修理し、

 泣きじゃくる子どもをあやす。


 相談者と顔を突き合わせ、どうすればよくなるかを考え、少しずつ問題をほどいていく。


 やがて、村に漂っていた張りつめた空気がほどけ、笑顔が増えていった。


「ありがとう」


「助かったよ」


 その言葉一つひとつが、胸に静かに積もっていく。


 「小さな手助けでも、人の生活を支える力になるんだな」


 そう実感した午後、村の広場で騒ぎが起きた。


「ま、待ってくれ!

 それは僕の……!」


 旅する音楽家チャゲルアが、空を仰いで叫んでいた。


 突風が吹き抜け、彼の大切な手書きの楽譜が、白い鳥のように舞い上がっていく。


「このままじゃ演奏できないんだ……

 お願いだ、冒険者!

 探すのを手伝ってくれ!」


 楽譜は三枚。


 一枚は丘の上、木の枝に引っかかり。

 一枚は川辺に落ち、森の動物の巣へと運ばれ。

 最後の一枚は、村外れの風見塔の裏、影の隙間に吸い込まれていた。


 冒険者ははしごを担ぎ、丘を登り、風に揺れる枝から紙を掴み取る。


 森では、手土産のおやつを差し出し、警戒する小動物たちと心を通わせた。


 風見塔では、静かな影に身をかがめ、指先で紙の端を引き抜いた。


 三枚の楽譜を揃え、広場へ戻ると、チャゲルアは目を輝かせた。


「ありがとう!

  さあ、ページを並べよう!」


 順に置かれた紙の上から、まるで風そのものが立ち上がるように、旋律が浮かび上がる。


 チャゲルアが弦を鳴らすと、軽やかな音色が広場を満たし、村人たちは足を止めた。


 畑を直した老人も、子どもを抱いた母親も、皆が音楽に耳を傾ける。

 それは、今日という一日を包み込むような、やさしい風の曲だった。


「この曲は君に捧げよう」


 チャゲルアは微笑み、言った。


「名前は……《風の旋律》だ」


 小さな困りごとに手を貸し、失われかけた楽譜を拾い集めた一日。

 冒険者は音楽に包まれながら思う。


──誰かの日常を支えることが、こんなにも温かい物語になるなんて。


 こうして村には、笑顔とともに、新しい旋律が残ったのだった。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ