第3章 15:夜空の星を観測
澄みきった夜気が村を包み込むころ、私は天文師に呼び止められた。
「今夜は星の巡りがいい。観測を手伝ってほしい」
村の広場に据えられた望遠鏡は、古びていながらも丁寧に磨かれている。
私は星図を片手に、星座の位置、惑星の動き、そして夜空を切り裂くように走る流れ星を一つひとつ記録していった。
小さな光が尾を引いて消えるたび、集まった村人たちが思わず息をのむ。
その静かなざわめきの中で、天文師モッズはぽつりと言った。
「星はな、季節を知らせ、畑を導き、そして人の心を遠くへ連れていく」
観測を終えた夜、記録は村の知識庫へと収められ、農作業の指標として未来へ受け継がれていった。
星を見上げると、確かにこの小さな村が、果てしない宇宙とつながっているように感じられた。
数日後、私は山岳地帯の観測所を訪れていた。
写真家バクフースが、「百年に一度現れる彗星」を追っているという噂を聞いたからだ。
彼は雲に覆われた空を睨みながら、焦燥を隠せずにいた。
「彗星は、雲の切れ間しか姿を見せない。
どうか……
軌跡を探すのを手伝ってくれないか」
もちろん、引き受けた。
私は高台や渓谷を巡り、天候のわずかな隙を探した。冷たい風が頬を打ち、雲が流れ、星々が一瞬だけ姿を現す。
その刹那、望遠鏡の焦点を合わせると、かすかな白い尾が闇の中に浮かび上がった。
ゆっくりと、
しかし確かに——
尾を引く光が夜空を横切っていく。
観測データを携えて戻ると、バクフースは震える声でつぶやいた。
「やっと……完成だ。
百年の軌跡を、みんなに見せられる」
後日開かれた写真展では、壁一面に映し出された彗星の光が、訪れた人々を静寂へと誘った。
村で記録された星々の知識と、山で捉えられた一瞬の奇跡。そのどちらもが、人と自然、そして宇宙を結ぶ確かな証だった。
私は再び夜空を見上げる。
星は黙したまま、しかし確かに、私たちの暮らしと物語を照らし続けていた。




