第3章 7:山の崖の安全補強
村の近くを通る山道沿いには、古くから崩れやすい崖があり、雨や地震のたびに村人たちを悩ませてきた。
そしてある日。
ついに山道の数区画が大きく崩れ落ち、通行が完全に途絶えてしまう。
現場に立っていたのは、木工と建築の職人として名高い老匠ミシェルガンだった。
崩れた斜面を前に、腕を組んで静かに息を吐く。
「これほどの損傷、近年まれじゃ……。
ワシももう年じゃからの。
一度に全部はよう手が回らん」
そこへ通りがかった冒険者に、ミシェルガン老匠は目を向ける。
「冒険者。
おぬしの腕を見込んで、手伝ってはくれんか?」
こうして冒険者は、村人たちと共に山道の修復と崖の安全補強に取り組むことになった。
まずは地形を測量し、崩落の原因を探る。
雨水の流れ、
地盤の弱い箇所、
落石の危険──
自然と向き合う作業は、戦いとは違う緊張感があった。
石を積み、丸太を加工し、法面を支える構造を慎重に組み上げていく。
落石防止の柵を設け、崩れやすい箇所には階段と支えを追加する。
作業の合間、ふと崖下を見下ろすと、視界いっぱいに広がる山の景色に息を飲んだ。
人の営みがいかに小さく、そして自然がいかに雄大かを思い知らされる。
ミシェルガンは口数こそ少ないが、時折ぽつりぽつりと語る。
「若い頃は、この山で山小屋を百個も建てたわい。
今は昔よ……だがの、技というのは、次に継ぐ者あって初めて残るものじゃ」
その言葉を胸に、一つ一つの工程を丁寧に仕上げていく。
夕方、完成した階段の前で、ミシェルガンが強度を確かめる。
しばしの沈黙の後、老匠は珍しく大きな声で笑った。
「ぬはは!
見事な出来じゃ!
よし、これならばワシが建てた階段にも劣らんぞ!」
修復を終えた山道は、新たな息吹を宿したかのように安定し、村人たちは安心して行き交えるようになった。
夕暮れの山道で、村人たちは深く頭を下げ、ミシェルガンもまた満足げに頷く。
「安全を守ることも、冒険の一部……か」
冒険者がそう呟くと、老匠は静かに礼をした。
「おぬしならば……。
この山を任せてもよいかもしれんの」
その言葉は、山の静けさよりも深く、胸に残った。
自然と人、
そして技と想いがつながる──
そんな一日だった。




