春
学校の帰り道、オレの少し前を夢花がスタスタと歩いていた。
なので、少し小走りして夢花のところに駆け寄った。
「夢花、今朝なんで逃げたんだよ?」
振り返り夢花は、けげんそうな顔をオレに向けて、
「それは、ほたるがタラシだからキモくて」
と、眉をひそめた。
「だからー、オレタラシじゃないって」
「ふーん。」
「なぁ、今週はうち来るだろ?」
「いや、行かない。別の先約がある」
「ゲーム?他のやつとやるの?」
「うん。クラスの男子で優しい人がいて、ゲームでフォローとかめっちゃしてくれて、アイテムもくれるの」
「それなら、オレもできるじゃん」
「タラシは、ヤダ‼︎」
「だからー、オレタラシじゃないって。」
「今朝もタラシてた」
「え、今朝?」
「タラシだから覚えてないか」
…オレは、朝から何をしたんだ?
よく覚えてないけど、でもとりあえずこの前のアレを訂正しておこうと思う。
春が好きじゃないってやつな。
あれから不機嫌な気がするし。
「なぁ、夢花。オレやっぱり春好きだわ」
「えっ…そうなんだ。い、いいんじゃない…でも、まずタラシやめないと報われないよ。てか、よくそんなことわたしに言ったもんだね。わたしのメンタルハガネじゃないから…だから、勝手に頑張ったらいいよ。わたしに報告しないでほしい」
そう言い終わると、夢花は青白い顔で走って行ってしまった。
春を好きになるためには、タラシをやめないと報われないって、なんですか?
タラシには、春が来ないの?
てか、メンタルとかって…なんなん?
オレが春が好きとか嫌いとか、夢花にどんな負担がかかるん?
夢花って、春の妖精とかじゃないっすよね⁉︎
それとも春の精霊?
…だとしたら、春が嫌いって言われたら傷つくのもありえる?
てか、勝手に頑張るってなに?
春を好きになるのって、頑張らないとならないの?
…
わからない。
意味がわからない。
春がどんどんこわくなるいっぽうなんですけど⁉︎
春が好きって言えば、こんなことになるし…
嫌いって言っても、あんなことになるし…
どうする?
この際、やっぱり冬が好きって言えばおさまるの?
…
秋は?
…
一番…無難な季節ってなに?
春夏秋冬…
それぞれ好きなところもきらいなところもある。
てか…
夢花は、タラシタラシって言ってるんだから、なんか…また違うことで怒ってる?
もしかして、ヤキモチやいてるんじゃないかなって気がするんだよなぁ。
夜な夜な夢花のことを考えだすと、いつのまにか寝てて、また八時間睡眠になった。
そこそこ寝てる。
そんな意外と寝てるオレは、朝カーテンをピシャっと勢いよくあけた。
すると…
向かいの家のカーテンの隙間から、夢花がこっそりこちらをガン見していた。
えっ⁉︎
い、いつからみてたんだよ…
暇かよ⁉︎
窓をあけて話しかけようとしたら、ピシャっとカーテンをしめられた。
…
かまってちゃんだったり?
夢花が、オレにどうしてほしいのか…オレはどうしたらいいのか、全くわからない。
今日、一緒に学校に行こうと携帯で連絡をしてみた。
すると、すぐさま返事が届いた。
イヤです。
と…
困ったな。
この前までオレたちは、あんなに仲がよかったのに…
なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
また今日も、夢花のことを考えて八時間睡眠になってしまう。
いや、むしろそこは規則正しい睡眠時間だ。
オレは元気なく、昇降口へと向かった。
すると、夢花が楽しそうにクラスの男子とゲームの話しで盛り上がっていた。
昨日は、ありがとうねってさ。
お礼を言われたクラスメイトの男子も、まんざらではなさそうな顔をしていた。
おいおい、このままいい感じになるんじゃないだろうな…
それは、イヤだ。
後悔する前に、夢花におもいを伝えたい…。
しかし、今は確実に無理な気がする。
どうしたら名誉挽回できるんだ?
帰ったら、とりあえずおさらいをしよう。
春夏秋冬の。
続く。