アレ
ボクの再構築する夢でシラユキは、寝言をよそおって暴言をはいていたコトを明かした。
ここでボクは夢のなかのシラユキへの返答として、例の破局の言葉を継ごうとした。
……だが。
現実のシラユキ「待った、それは通じない」
シラユキが、このタイミングで介入する。
崩した正座の身を揺らす。
ユキ「そのまま感情に任せたセリフをはかせるだけなら、キャラの作り込みがあまいと言わざるを得ない」
現実のタダヒコ「夢のなかの、ボクのコト?」
あぐらをかいた太ももに、ボクは両腕を置く。
タダ「だけど『ネタばらし』が終わった今、ここで例の寝言を口にしないと……現実のボクが、あのひどい言葉を叫べない」
ユキ「今回の想像におけるタダヒコは、確かに本物とは違う」
このときシラユキの両手も、自身の膝に添えられた。
ユキ「でも夢とはいえ、ほどほどに一貫性が見られる。ところどころ乱されるコトはあっても……できるだけ感情を抑えつつ、最終的に、相手の話を聞こうとしている」
タダ「そこが、かえって、ずるいような気がしない? ……いや考えてみると、シラユキの言うとおり、そんな態度に収まった人間がこのタイミングで感情を爆発させるのも変だね。ありえないくらい納豆が糸を引いたような、意味のわからない状況でもないのに」
ユキ「というかタダヒコさあ……夢のワタシも完全な悪人として、えがききれてないよ。自分の恋愛感情を所有欲と勘違いしているだけのドSヤンデレって印象なんだけど……」
タダ「え、そう言われると、そんなシラユキも悪くないかも?」
ユキ「結局は夢を想像するタダピコが善良すぎるんだね。これについては作り込みがあまいワケじゃないんだけど、ワタシとしては……夢のなかの、悪に染まりきれない、二人なりの結末があるんじゃないかと思うんだ」
タダ「じゃあ最後の叫びをどうしよう。また唐突にファンタジーをぶっ込んで驚かせるか」
上体を前後させ、ボクは考える。
そして首を横に振る。
タダ「ダメだな。突発的なファンタジーは戸惑いを誘発し、ボクにセリフを促すかもしれないけれど、シラユキへの気持ち自体を変更するコトはない。このまま考えなしにご都合展開を挿入したところで、続くセリフは適切なモノになりえない」
話の途中ならともかく……後編の終わりまで来て、世界観を無視した場面を差し挟めば、今まで積み上げてきた夢のすべてをひっくり返すようなモノだ。
では例の寝言を、口に出さず心のなかだけで叫んだ言葉と捉えるのは、どうか? いや、起きたとき、ボクのあごと喉には確かに声を張り上げた感覚が残っていた。
ここでシラユキが心配そうな顔をする……コトもなく言う。
ユキ「ワタシが話を引き継ごうか」
タダ「ありがとう。でもシラユキを傷つけたかもしれない以上、ボク自身がこの夢を終わらせないと、いけない」
ついで、「なにか、ないか……最後のセリフとも夢のなかのボクたちとも矛盾しない終わり方が……」とつぶやくボクに、低く落ち着く声がかぶさる。
ユキ「なら、無理に進めようとせず、いっそ戻ったら?」
タダ「どこに」
ユキ「そもそもの始まりに」
タダ「夢の最初……だけど夢自体は想像の産物でもある。じゃあ、夢の前にある真の始まりは……? もともと、ボクたちが夢を再構築し始めた『きっかけ』は……」
ボクは体の動きをとめた。
タダ「そっか、わかった。答えはアレだ」
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「ふーん、これで言いたいコトも終わりかな。それにしても」
シラユキの後ろ髪を見下ろしつつ、ボクは小声でつぶやいた。
「ずいぶん長い寝言だったな」
「……え、ちょっとタダヒコ、今さら、そんな現実逃避、通用しないって……!」
ボクの腕に当てていたひたいを持ち上げ、シラユキが上目づかいで、にらんでくる。
「ワタシ普通に起きてるし、目をあけてるし、立ってるし……眠ってないし、アナタと会話を交わしてる。さっきまでのは、覚醒状態で口にした、ワタシの意志による言葉だよ」
「でもシラユキは、まさに今、夢を見ているかもしれない」
「メチャクチャな……。それとも言いたかったのは、『たわごと』って意味の寝言かな」
「いいや、たとえ寝言でもシラユキの言葉は無視できない」
「いい人ぶらないでよ。……これまで、さんざん、うるさがってたクセに」
「そうだね、悪かった」
今度はボクが、自分の交差した腕に向かって頭を沈めた。
シラユキに頭を下げた。
「これからは寝ても覚めても、言葉の全部をちゃんと聞く」
「やめて……くれない?」
ボクの両手をつかんだまま、シラユキがよろめく。
「タダヒコの中途半端に人と向き合おうとするところ、本当に無理。『寝言に偽装して、わざと安眠妨害している』って告白されたら……マジメに一緒に住んでいる人ほど、おこるはず。なのにタダヒコは、理解者ヅラして、ヘラヘラしたまま」
「すでに、おこったよ。『出ていけ』って言った」
ボクは身を起こし、もう一度シラユキに謝った。
「それも取り消す。ごめん」
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