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なるほどじゃない

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

……ここまで説明したシラユキに、ボクは声をうわずらせて指摘(してき)する。


「でもシラユキは『ぶっころ』の次の日に……『起きていた自分がそれを(くち)にした可能性もある』とボクにみずから明かしたじゃないか。実際にそんなコトを考えていたなら、本心を(かく)していたハズだよ」


「それと似たようなセリフは、もう当日に聞いたってば。あえて自分に疑いを向けさせるようなマネをして、かえって信用を()るなんて……今じゃ、ありふれた方法なんだよ。ヘタに(かく)せばバレたときに言いのがれしにくくなるから、予防線として()()()()()ふれるの」


交差させたボクの両腕(りょううで)を、こするように動かすシラユキ。


「それ以降の(よる)も、寝言(ねごと)をよそおう罵倒(ばとう)をはいた。こっちが金切(かなき)(ごえ)を使えば、普段(ふだん)の低い声を聞き慣れているアナタは寝言の可能性を否定しきれない。かつ、定期的に意味不明な言葉を()ぜるコトで、寝言らしさをアップさせた」

「まさか『カエルーッ!』も『目玉焼きの逆襲(ぎゃくしゅう)』も、本心の罵倒を『寝言だ』と言い張るための言葉だったのか」

「え、ワタシ、そんなん言ったっけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ここでシラユキの……ほおの骨が、プルプル(ふる)えた。


「そうやってワタシは――福生ふっさタダヒコという所有物をもてあそぶのを楽しんでいた。しつこく病院を(すす)めるアナタの言葉を聞いても『だいじょうぶ』とごまかし続けた。当然だよね。専門の先生が見れば、ワタシの寝言がウソって()()()()()()だろうから」


ついで首を回し、「でも」とつぶやく。


昨夜(さくや)、ついにタダヒコが動いた。読めていなかった。ワタシ、アナタをなめすぎていたのかも()()()()。『そのうち、睡眠中(すいみんちゅう)のフリをするワタシに近づいて、様子を観察するくらいのコトはする』とは思っていた。一方(いっぽう)で、こちらの(くち)をふさぐとまでは考えなかった」


(あら)く、(つよ)いモノが、語気(ごき)に加わっていく。


暗闇(くらやみ)のなか、息が当たる距離(きょり)まで顔を近づけられたとき、ワタシは寝言を(さけ)ぶコトにした。至近(しきん)距離で鼓膜(こまく)にダメージを(あた)えるのも、面白(おもしろ)いかなって」


シラユキの言葉のはしばしから、激しい吐息(といき)がこぼれ落ちる。


選択(せんたく)する寝言は、()()()()、あのセリフ。『ぶ』って破裂音(はれつおん)は、閉じた(くちびる)一気(いっき)にひらくコトで生まれる。この快感を連れながら、『ころ』という、かわいい(おと)に移行する。すかさず『してやる』で文意(ぶんい)を確定し、余韻(よいん)(ひた)る……ハズだったのに、不発に終わった」

「ボクが『ぶっこ』のタイミングで、シラユキの(くち)にテープを()ったからだね」


「そのときのワタシの気持ち、わかるかな」

「……ボクには(さっ)するコトができない」


()えがたかった。タダピコがワタシを思いどおりに()()()()()()コトが、許せなかった。だってタダヒコはワタシの所有するオモチャだもの。そんな遊び道具にすぎない存在が、許可なく持ち(ぬし)(うえ)に立とうとした! 尊厳(そんげん)を、食い散らかされた気分だよ……」

「だから、ボクの指も()()()()()


「あー、確かに()()()ね。でも、かむ前のほうが大事(だいじ)。アナタにテープを()られたおかげで、ワタシの(からだ)のすみずみが内臓に(いた)るまで一瞬(いっしゅん)であったまったから。このまま安眠(あんみん)させてなるものかと()(けっ)したワタシは、もう一度(いちど)『ぶっころ』という声を上げた。テープを()がす(いきお)いで(くち)をひらいたから、ものすごい(おと)になっちゃったけど。お(となり)さんに聞こえてないよね」

「ケンカと思われた可能性は、あるね」


「心外。アナタの暴動を、ワタシが鎮圧(ちんあつ)しただけなのに」

「でもシラユキ、テープを()られたあとに(さけ)ばざるを得なかった()()()()()()()()()、どうして『ころころ』という(おと)を連続させたんだ」

「え? 『ぶっころころころころころす!』のこと? しっかり刻んだようで、なにより」


……と言い終わるや(いな)や、シラユキの頭が(しず)み、ボクの交差した(うで)に落ちた。

両腕の重なる部分に、シラユキがひたいを()しつける。


「そのときのワタシ、カンカンだった。だから、とまらなかったんだと思う。『ころころ』って言いやすいじゃん? とはいえワタシの高い声なんて、そんなに続かないから、『ころ』は五回まで。あとは『してやる』の四文字を続ける余力(よりょく)もなく『す』を付けて終わらせた」

「なるほど」

「なるほどじゃない。ワタシの寝言がウソで、実はDV(ディーブイ)でしかなかったってのに、なに『ひとごと』みたいに……」


シラユキのひたいが、ボクの長袖(ながそで)の上で震える。


「やっぱりタダヒコ、気味悪い」

「とはいえ、『ぶっころころころ』以下略(いかりゃく)の時点では……まだボクはシラユキの寝言を本物と信じていた。にもかかわらず、どうしてシラユキのほうから、寝言が偽物(にせもの)だと明かしたの。その段階まで来たら、あえて自分に疑いを向けさせるのは有効な手じゃないよね」


「思えば、なんで、なんだろうね。こうして玄関(げんかん)に引きとめられて、思わずタダ『ピ』コって言っちゃって……『ワタシの()けの皮も()がれかけている。なら、もう、いいかなあ、ぶちまけて、この機会にアナタが(した)だと理解してもらおう』と考えたからじゃ、ないかな」

「それで最後にブチュッと言わせようとしたんだ?」

「タダピコの顔を、盛大(せいだい)(つぶ)して別れるためにね」


後頭部をボクに向けたまま、シラユキが言う。


「ワタシはタダヒコを充分(じゅうぶん)に、もてあそんだ。もう用済(ようず)み。……DVとして(うった)えたいのなら、勝手にやって」

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

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