表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/47

夢で話すのは誰?

 和室に(なな)めに(なら)べた二つの布団(ふとん)……。

 その上に(こし)を下ろし、ボクたち二人は対座(たいざ)した。


 両手を(ひざ)に置き、上体を前傾(ぜんけい)させるシラユキ。


「言ったとおり――夢で()()()()()しゃべった言葉が、その夢を見ている()()()(くち)から出てくる可能性もあるとワタシは考える。根拠(こんきょ)は三つ」


 シラユキの丸い(ひとみ)がボクに(せま)る。


「一つ目。夢全体を所有するのは、夢を見ている本人だから」


 ……シラユキによると。


 あらゆる夢は自己の脳内で完結する「一人芝居(ひとりしばい)」にすぎない。

 とすれば、夢のなかの()()()()登場キャラクターは、「自分の一部(いちぶ)」とも言える。


 他人に()える姿さえ、それは「自己にこびりついた自分自身の記憶(きおく)」をもとにしたモノだ。


 夢中の他者を動かすのは、自己と切り(はな)された他者ではなく、流れるような()()()恣意(しい)にほかならない。

 作り出されたキャラの裏には、なによりも「自分」が(かく)れる。


 主人公になりえない脇役(わきやく)の言葉も、夢においては、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 よって……夢のなかで本人以外の(だれ)かが(くち)にしたセリフが、現実に(ねむ)る当人の口から出てくる可能性は充分(じゅうぶん)にありえる。


 それもある意味、本人の言葉なのだから。


「……なるほど、シラユキの言うとおり、夢は完全に自分だけの世界でもある。他人のしゃべったセリフが自分の言葉として処理され……そのまま寝言(ねごと)になっても変じゃない」

「そうそう」


 首だけでなく、上半身全体を動かしてシラユキがうなずく。


「で、夢で他人の言ったコトが現実の寝言になりうる根拠の二つ目。寝言の条件として、()()()()()()()()()()()()()()から」

「そういえばシラユキと前に確認したっけ。『夢を見ないで寝言を(くち)にする場合もある』って」


「それを()まえて説明してみて、タダヒコ」

「……本当だとすれば、『寝言を(はっ)する(さい)には、それと同一(どういつ)の言葉を夢で発音しなければならない』という条件は成立しない。この前提が、夢を見ていないときだけに限らず、夢を見ているときにも当てはまるなら……?」


 自分のセリフとして発した言葉でなくとも、寝言にするコトは可能だ。


「夢のなかで自分がしゃべっていない場合でも、()()()()()発した言葉に()()()()、現実に眠る自己の(くち)が運動する――そんな現象が成立しうる」

「ワタシも同意見。ちなみに、夢で思ったコトが寝言として出てくるケースもあるだろうね。ともあれ(みっ)つ目……最後の根拠に()こうか」


 ここでシラユキは小さく右手を挙げ、指を一本(いっぽん)二本(にほん)三本(さんぼん)……順に立てた。


()()()()()()()()()()()()()()()

「あ……それ、今朝(けさ)も言ったヤツだよね。カエル(がた)バルーンの夢に(かん)して、『本当にメチャクチャ!』ってさ」

「うん。これが一番(いちばん)、簡単だね。夢のなかは世界も時間も、(そう)じて不安定」


 立てた三本の指を、ボクの前で()らすシラユキ……。


「だったら、『自分と他人の境界』だって例外なく安定しないハズ。どこまでが自分で、どこからが他人なのか? 現実でも明確な解答のない問題に……理性のぶっ飛んだ夢のなかで、答えられるワケがない」

「なるほど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ワケか」


(かり)一人芝居(ひとりしばい)でなかったとしても――自他の区別が不明瞭(ふめいりょう)なら、()()()()()()が自己にスッと(はい)ってくるだろうね」

「結果、それが()()()()()として結実するかもしれないんだなあ……。でもシラユキ、なんか(みょう)にスラスラ答えてくれたよね。調べたの?」

「いや独断」


 シラユキが右手を、正座のボクの膝に落とす。


「次回作で夢自体(じたい)を題材にするつもりは()()けれど、職業柄(しょくぎょうがら)かつ性格上、ワタシ……こういう考察、(きら)いじゃないもの。他人が作った心理学で自分の心を説明されるのが好きじゃないから……自分独自の心理学を持とうとするワケだね」

「そっか、ありがとう、シラユキ」


 夢で本人以外の(くち)にした言葉が、現実の寝言になりうるのなら――。


宮先(みやさき)さんのお父さんの記憶にある「()()()()()()()()()毎日の夢に現れ、例の()()()()()()()()()と考えられる。それが()()()()()()()()()()()()()れているんだろう)


「……ボクも、わからなかったコトに対して答えを見つけられそうな気がするよ」

「よかった。仮定の話、したカイがあったね」


 微笑(びしょう)しながらシラユキは、右手をスッとひっこめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ