表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/46

どこで寝言になったのか

 ――以上が、「タダピコ」という()()()一回(いっかい)寝言(ねごと)からボクが再構築した、シラユキの夢である。


タダヒコ「夢というか、ほとんど(おも)()(ばなし)になったけど」


シラユキ「そうだとしても四文字の寝言だけで、よくここまで思い出せたね。ワタシも当時の記憶(きおく)がよみがえってきて、もだえたくなる」


タダ「ボク自身は正確に思い出したつもり。でも美化された部分や、事実と異なる箇所(かしょ)も結構ありそう」


ユキ「まあ、それがワタシの夢ともなるとタダヒコの思い出補正(ほせい)で、ゆがんでいるのが自然(しぜん)でしょ。そういう夢を見たと……ワタシも思うよ」


 いったん()布団(ぶとん)()いで、シラユキが上半身を起こす。


ユキ「うん……証拠(しょうこ)がなくても、そう思っていいんだ。(だれ)にも意識されない客観的な事実より、正しいと思われている主観的な記憶のほうが、『人の本当』だろうから」


タダ「そうだね。あと、シラユキが寝言で(はっ)した『タダピコ』という言葉に関しては、主観的にも客観的にも間違(まちが)いのない事実だったと言えるのかもね」


 ボクも上体を立て、首を回す。

 そんな様子を見ながら、シラユキが今回の夢の話を要約する。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

高校生のとき、ワタシは一人(ひとり)の男の子のあだ名を呼び続けました。

人の名前を呼ぶのが苦手なワタシにとって、それは()()()()コトでした。


呼べなくなったときも()()()けれど、その時期も()え、卒業式の日にタダピコはタダヒコとしての顔を見せてくれました。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



ユキ「タダヒコ。きっと今の時間も、いつか同じように、夢に見るのかもしれないね」


タダ「可能性は、ある」


 (かべ)の時計を見て時間の経過を確かめたボクは、立ち上がった。部屋のあかりを消すために。

 しかしシラユキの次のひと(こと)により、動きをとめた。


ユキ「あらためて思うんだけど、ワタシが寝言で(くち)にしたっていう『タダピコ』ってさ……ホントにワタシが()()()言ったモノなのかな」


タダ「(ちが)う可能性もありそう?」


ユキ「タダヒコの考察どおり、それ以降のワタシのタダピコ呼びは普通(ふつう)になった。だから寝言として(くち)から()れなかった。でもワタシ、最初のタダピコも、本当は自然に(くち)にできたような気がするんだ。……タダヒコの再構築する夢を聞きながら、そんなコトを思い出した」


 シラユキは説明する。

 呼ぶ直前は(のど)()まらせたものの、いざ「タダピコ」と発音する(さい)緊張(きんちょう)せずに、するりと言えたのだと……。


ユキ「だから一回目(いっかいめ)は寝言にならなかったハズなんだ。そのレベルで寝言になっていたら、そのあと何回も『タダピコ』という寝言を(くち)にしていただろうから」


タダ「とすれば、二年に進級してから初めてタダピコと呼んだのが寝言になったとか? シラユキがボクの(わき)(うで)を差し()んだときのヤツ。あのときシラユキは緊張して心臓バクバクじゃなかったっけ」


ユキ「いや、それはタダヒコのほうだから。ワタシはあんまり感情を()めずに、スッと『タダピコ』と言ったハズ」


タダ「じゃあ、シラユキの寝言の『タダピコ』は、いったい()()()タダピコなんだ……?」


ユキ「()()()()()()()()()()、そのタイミングは存在しなかったとワタシは信じてる」


タダ「やっぱり、ただ過去の話を再現するだけじゃ足りないとか? それとも、記憶に致命的(ちめいてき)なミスが(ふく)まれていて……決定的なタダピコ呼びを見のがしているんじゃ?」


ユキ「(ちが)うよ、タダヒコの再構築した夢自体に間違(まちが)いはないと思う」


 シラユキがサイドポニーを右手ですいて、深呼吸する。


ユキ「この不可解を説明してみようか。……そもそもタダヒコ。夢にはストーリーが存在する。脚本(きゃくほん)としては破綻(はたん)していたりするけどね。ただ、夢を見る人がそのストーリーを認識する方法は(ひと)つに限らない」


タダ「……え? なにそれ、見る人によって夢はカラーになったり白黒になったりするとか、そういうの?」


ユキ「その話も考察のしがいが()()けれど、ここでは『どこでそのストーリーを見るか』というのが問題。夢においては、二つの視点がありうる。『参加型(さんかがた)』と『視聴型(しちょうがた)』ね」


タダ「なんか心理学っぽい」


ユキ「自分が夢の登場人物になる場合は参加型。物語の(そと)にいて話を観賞しているだけの場合は視聴型」


 シラユキが、じっとボクを見上げる。


ユキ「参加型は積極的に物語に関われる一方(いっぽう)で、いやおうなしに事件に巻き込まれる。視聴型は安全な位置から話を受容できる反面、ストーリーに影響(えいきょう)(およ)ぼすコトができない」



タダ「……へえ、面白(おもしろ)いな。だけどシラユキ。見た夢を覚えていないわりには、なかなか夢に関する造詣(ぞうけい)が深くない?」


ユキ「今は、ほとんど内容を忘れてしまうけど……小さいころは、よく夢を思い出してた。ワタシが物書きを目指したのも、そういう手放(てばな)してしまった夢を()()()()()()()()()()なんだろうね」


タダ「そうだったんだ。ボクも子どものときは、たくさん夢を覚えてたよ」


ユキ「だけど大人(おとな)だって夢は見るし、寝言も(くち)に出すんだよね……。きのうタダヒコの夢の再構築を聞いてから……ワタシも夢や寝言について本格的に考え始めてる」


タダ「まあ、ボクもシラユキの寝言にふれるまで、そういうの()()()気にしたコトなかったなあ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ