表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/45

熊野シラユキとタダピコ

 学年が変わり、シラユキとボクが声をかけ合わなくなって二か月以上が()ぎた――。

 そんな夢の続きを、再構築していく。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

この奇妙(きみょう)な関係は、いつ破られたのか。


突如(とつじょ)として事件が起こって二人(ふたり)の仲が急接近した! ……などというコトは、ない。

少しずつ、少しずつ……変化(へんか)が刻まれていっただけだ。


最初は偶然(ぐうぜん)だった。


ある日、いつものように廊下(ろうか)で会って、(たが)いに沈黙(ちんもく)したまま目を合わせた直後。

すれ(ちが)(さい)に、シラユキとタダピコの左腕(ひだりうで)接触(せっしょく)した。


こちらは、いつものコトではなかった。

長袖(ながそで)の状態でブレザーの制服がこすれ合った程度である。そのときは、それだけで終わった。


次に同じ状況(じょうきょう)になったとき、シラユキは、わざと左腕を向こうの左腕に近づけた。

正確には、左袖(ひだりそで)同士を意図的にふれ合わせたと言うべきだろう。


暴力的なモノではない。

ふれたか、ふれなかったか、わからないくらいのニアミスだ。

互いにとまる必要も、どちらかが(あやま)る必要もない……そんな微妙(びみょう)な接触を試みたシラユキであった。 


タダピコとの今の関係性に不満を覚えていたのではない。

ただ、シラユキは……()()()()()()()()()()()()()()()()、タダピコとこすれ合ったにすぎない。


そのまた次のすれ(ちが)いにおいては――目が合ったときにタダピコが、きびすを返そうとした。

ところがタダピコは結局そうせず、接近するシラユキのそばを()ぎる。


このときは(そで)のみならず……再び、(うで)までがこすれた。

衣服()しに、それがわかった。


シラユキ自身は前回と同じく左袖だけを軽く接触させるつもりだった。

しかし想定以上のこすれ合いになった。理由はタダピコのほうにある。


おそらくタダピコは(さき)のニアミスを受け、「今度も向こうが自分に思わせぶりな態度をとるのでは……?」と予想していたのだろう。


ために、歩き方はぎこちなかった。

腕もこわばっていた。


遠ざかっても相手に失礼かもしれない……近づきすぎれば(いや)がられるかもしれない――まるでそんなコトを考えているかのようにタダピコは微妙な距離感(きょりかん)を無理に維持(いじ)し続けようとし……結果、歩く姿勢のバランスを(くず)した。


その直後、シラユキの左腕(ひだりうで)に自分の左腕を当ててしまった。

相互(そうご)の腕がこすれた瞬間(しゅんかん)、タダピコとシラユキは同時に「ごめん」と言った。




そして制服が衣替(ころもが)えの時期を経て半袖(はんそで)に変わってからも……二人は接触する。

むきだしの腕が、相互に接近する。


タダピコの「うぶ()」が、シラユキの生身(なまみ)の腕をなでた。


「む」

「え」


(くち)をあけずに発音されたシラユキの鼻音(びおん)に、タダピコが思わず反応(はんのう)する。




次の機会では指の一本(いっぽん)が、ふれ合った。

次の次の機会では中指同士が引っかかった。


……そして、()()()()すれ(ちが)いにて。


()()()()()()()()()()()()()()


パチーン! といった派手(はで)な音はしない。

タダピコの手が(あせ)ばんでいたので、シラユキの手の(ひら)はヌルリとすべった。


エスカレートしていく、二人のこすれ合い。

しまいには……。


廊下ですれ違う(さい)にシラユキが、タダピコの左脇(ひだりわき)に左腕を差し()んだ。

そのまま(ひじ)を曲げ、タダピコの左肩(ひだりかた)の後ろに手をあてがう。


つまりタダピコの左肩は、シラユキの左手と左肩とに(はさ)まれた格好(かっこう)である。

大胆(だいたん)奇行(きこう)とも言えるが――近くに人影(ひとかげ)がなかったコトも、シラユキの行動を後押(あとお)しした一因(いちいん)なのかもしれない。


戸惑(とまど)う相手に対し、流し目を向けるシラユキ。


「タダピコ」


それだけを言った。


()さえた(かた)から脈動が伝わってくる……。


シラユキの固定を()りほどこうとしていたタダピコ本人は、その呼びかけを聞いて動きをとめた。

左腕(ひだりうで)をだらりと垂らしたまま、横目を向け返す。


熊野(くまの)さん……なに?」

「今、ひとり?」


「見てのとおりね」

「ワタシ、これまで無視し合ったコト……(あやま)る気も謝らせる気もない」


「ごめん」

「こっちこそ、ごめんね」


「……早速(さっそく)、謝ってない?」

「前に腕がぶつかったときも『ごめん』って思わず言い合ったワケだし、このくらいはね?」

「そっか、なら、しょうがないか」


互いに顔を向け合わず、横目だけを送りながら……シラユキとタダピコが小さく笑う。


シラユキがタダピコの左肩の後ろをさする。


()()()()()()()()()()()()()()()()()。もし(いや)じゃないなら、昼休みにでも一緒(いっしょ)にいない? 一秒だけでも、いいからさ」

「嫌じゃないけど迷惑(めいわく)じゃ……」


「周囲に誤解されるかもって? 心配ないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……わかった。ボクも、本当は……熊野さんと」


「無理して言わなくていいよ、ありがとう」

「また話せて、やっぱり()()()()

「あ、タダピコ。言いきっちゃったかあ……」


ここでシラユキは、ゆっくりと左手を下ろす。

一歩だけ()がって、タダピコの拘束(こうそく)をとく。


そのあと(たが)いは()()()()()、しばらく無言の不動を続けた。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ