絶対にバレる訳には行かない極秘任務
〜登場人物〜
山本康夫(65歳)平凡なサラリーマン
山本美津子(60歳)普通の専業主婦
山本彩花(37歳)一般企業勤務、独身
山本隆夫(69歳)独身、放浪癖あり、新しいもの好き、康夫の兄、彩花や悠太の叔父、定年退職して悠々自適な生活を満喫中
山本悠太(33歳)山本家の一人息子
星野愛莉(21歳)お嫁ちゃん(候補)
星野健司(45歳)
星野美咲(42歳)
星野瑠奈(17歳)
山本美津子が買い物に出ようとした時、
彩花と隆夫、二人を乗せた新幹線が、スーッと東京駅のホームにたどり着いた。
「なぁ、彩ちゃん、来週有給取って会社休めん?」
隆夫から彩花に電話がかかってきたのは先週の水曜日の夜のことだった。
「なんで? 叔父さんどないしはったん?」
彩花は慌てた。もしかしてどこか具合でも悪いんやろか?
お父さんやお母さんはもちろん、独り身の叔父さんも、具合悪くして入院するとかなら、自分が付き添いをするべきやと、前々から思っていた。
「いや、なんもないよ、ただ、彩ちゃんと一緒に東京見物に行きたいな思てな」
「はい? 東京見物?」
並みの老人であれば、納得する。東京に一人で行くんは怖いとか、場所が分からんから付き合うて欲しいとか、そらあるやろ。
だが、隆夫に限ってそれはない。
齢70に手が届こうという老人ながら、単身でネパールへ行き、山登りをするような人なのだ。
メンタルもフィジカルも、37歳の自分より屈強な気がする。
「ワイは悠太が可愛いんや。せやからな、愛莉さんのインスタをチェックしたんや」
「ほんで?」
「あの子はホンマにええ子や、魂がキレイな子やわ。悠太のことも大事にしてくれる思うわ」
彩花の脳裏に挨拶の時の愛莉の言葉が蘇った。確かに、悠太のこと大好きやて繰り返し言うとった。
「でな、ワイから愛莉ちゃんにDM送ったんや」
ダイレクトメッセージて……叔父さん距離の詰め方が若者やな。
「山本隆夫言います、悠太の叔父です、てな」
「へぇー」
「ほんなら、『マジで?デジマ?マジデジマ?』って返ってきてな」
今時のギャルはそんな風に言うんやろか?
「マジマジ大マジや、って返したんやけど」
今時の老人はそんな風に……いや、言わへんわ。この人を今時の老人として考えたらあかんわ。
「愛莉ちゃんから『てか、本当に悠太きゅんの関係者? ただのヤリたい盛りのおっさんなんじゃね?』って言われて」
ヤリたい盛りって……え、69歳って、もう、無理……だよね? いや、でも叔父さんなら分からん。前にアフリカ行った時、現地の彼女の乳を揉んでいる写真を持って帰ってきたことがあった。お母さんは破廉恥やっ、子供にこないなもん見せんとくれやすって激怒していた。子供言われたかて、そん時もう私33歳や。立派過ぎる行き遅れや。
「悠太の写真見せたり、おねしょエピソード話したり、家族構成の話したりしてようやく本当の叔父さんって分かってもらえたんや。ほんで一回ちゃんと会おうやって話になってな」
「ほんで?」
「愛莉さんは派遣社員やから毎週水曜日は休みやねんて」
「ほんで?」
「悠太は水曜日も仕事やん?」
「せやろな」
「毎週水曜日限定で『トリプルデッカーレインボーパンケーキ』言うんがあるらしいわ」
会おうって話と、その長ったらしい名前のパンケーキの話が結びつかんけど、まさか叔父さんも食べたいとか、そういう?
「愛莉ちゃんが言うにはな『ふわふわの三段パンケーキに、たっぷりの生クリームエベレスト盛り、そこにストロベリー、マンゴー、レモン、メロン、ブルーハワイ、アサイー、ブルーベリーの七色シロップが滝みたいに流れてるんやって。トッピングは、もくもくの雲みたいなマシュマロ、それにユニコーン型シュガー、食用のキラキラパウダーでデコられた映え間違いなしのスイーツがある』言うてな。それを一緒に食べようって話になったんよ」
うわぁ、聞いただけで胸焼けしそうやわ。食べるんなら、お二人で食べたらよろし、つい、まるでお母さんみたいな口調になってしまう。
「あ、お二人でどうぞ、思うたやろ?」
ずばり言い当てられて、曖昧に笑う。電話口で表情までは見えへんやろけど。
「でもな、ワイも男やで。それも独身や。まさか可愛い甥っ子の彼女を横取りなんてせえへんけど、人目言うんがあるやろ。そない二人でパンケーキなんて食うとったらデートや思われても不思議ない言うか」
いやいやいや、ちょっと待って。69歳と21歳が二人でパンケーキ食べてたかて、誰もデートやなんて思わんわ。普通に考えてじいちゃんと孫や。
勘違いするにしても良くてパパ活、いや、ジジ活か? 介護職員が入所者のお散歩のついでにパンケーキ奢られてる思うだけや。我が叔父ながら、いつまで現役の気ぃでおんねん、なんやの、この人。
私かて、会社の若い男の子と、クライアントとの待ち合わせまで時間ある時にお茶したりするけど、そない考えたことなんてないわ。
「やぁ〜〜〜、多分デートやとか、そないなことは誰も思わへん、と思うで。せやから、叔父さん一人で行ってきたらえんちゃうん、お母さんには黙っとくで」
一緒に東京へ行ったりして、もしそれがバレて怒りに巻き込まれんのだけは嫌や。
「いや、彩ちゃんも愛莉ちゃんのことをしっかり見ておくべきだよ。悠太のお嫁さんってことは、彩ちゃんの義妹や。彩ちゃんかて知っとるやろ。結婚はタイミングや。ワイかて、若い頃から色々な女と浮き名を流してきたけど、お母ちゃんの反対やら、向こうの親御さんの反対やら、仕事の都合やら何やらでこの年までご縁がなかったんや。彩ちゃんかてそうやろ、大学の時の彼氏との話や、京都に戻ってきてからの彼氏ともタイミングが合わへんかったんやろ? せやから独身なんよな。まぁ今は昔みたいに独り身やから肩身が狭いなんちゅうこともないけどな。悠太がせっかく結婚しよう思うような彼女と知り合うたんや、我々で応援したろやないか」
確かに、今まで付き合った彼氏とも結婚って話に何度かなった、でも私が就職で京都に戻って遠距離になって自然消滅したり、先輩社員の彼氏が会社を辞めて起業して忙しなったり、同僚だった彼氏が転勤になったり、浮気されたり、なんや色々あって37歳のこの年まで独身や。悠太かて、今回愛莉さんと別れたら、そない器用なタイプやないし、一生独身かもしれへん。叔父さんみたいに独身貴族を謳歌する感じでもないし、末は社畜で過労死、それも一人暮らしのアパートで孤独死かもしれへん。たった一人の弟がそない寂しい最期やなんて可哀想や。
「美津子さんを説得するんにも、彩ちゃんの援軍が必要や。康夫はあないぼんやりやから反対もせんやろし、せやけど、味方に引き入れても戦力にもならんやろしな」
そっちが本音か……。お父さん経由で、この結婚話にお母さんが難色を示しとるのを聞きつけたんやろな、説得するにあたり一致団結して、牙城を切り崩そう言うつもりやな。
応援かぁ……せやけど、愛莉さんはなぁ、お母さんのストライクゾーンからハズレもハズレ、大外れや、せめてちょこっとでもカスっとったら、良かったのに。
洋服だけでも清楚なお嬢さん風のワンピースとか着て来てくれはったら……、いや、ありやん。
悠太はあないぼんやりしとるから、お母さんの取り扱い方を詳しくレクチャーしとらんのやろ。私が愛莉さんに直接、こないなところに注意して付き合ったらええよ、て伝えたら……。
もしかしたら、お母さんかて愛莉さんを認めるんやないやろか。
「叔父さん分かった。私、来週の水曜日、有給休暇申請するわ。ほんで、お母さんには内緒で、普段通り会社に行くふりして、京都駅に行くし、そこで待ち合わせでええ?」
「彩ちゃん!!やっぱり彩ちゃんはお姉ちゃんやな。ほな、京都駅でな。叔父さん新幹線のチケット買うとくわ。お弁当とお茶もな」
「あ、お弁当はええわ。朝ご飯食べへんかったらお母さんに勘付かれるかもしれんし。その長い名前のパンケーキは胃もたれしそうやから、遠慮するとして他にもなんかあるやろ、コーヒーとかケーキとか。私はそれご馳走して貰うわ」
「おう、ええで。ケーキ2個でも3個でも食べ」
「そない食べられるわけないやろ、私ももう37歳やで、胃袋が若ないねん」
「37歳なんてまだまだや、赤ん坊に毛ぇ生えた程度やん。ワイは69歳の今でも朝からカツ丼食うて、パフェ食うたりすんで」
いやいや、だから。
叔父さん基準で考えたらあかんて。




