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赤裸々なお嫁ちゃん

~登場人物~

山本 康夫(65歳)平凡なサラリーマン

山本 美津子(60歳)普通の専業主婦

山本 彩花(37歳)一般企業勤務、独身


山本 悠太(33歳)山本家の一人息子

星野愛莉(21歳)お嫁ちゃん(候補)


 山本(やまもと)美津子(みつこ)は両手で耳を覆いたくなった。

 

 久しぶりに帰ってきた一人息子が結婚相手にと連れてきた女の子は、美津子がイメージするような清楚ないいお嬢さん像にはほど遠い、どちらかと言えば敬遠したくなるような風貌のお嬢さんだった。


悠太(ゆうた)よりも一回り年下だというその女の子に、夫が馴れ初めを聞いたものだから、さっきから息子の知らなかった一面をストレートな言葉で聞かされていた。初デートの場所やプロポーズの言葉など、見知らぬ男女の話なら、あらまあで済ませられるかもしれないが、一人息子のそんな話は聞きたいものではない。



 「それでね、それでね、一番最初はね、愛莉(あいり)が入社してすぐ部長への電話を取って、社内の人のことは呼び捨てでって聞いてたから『中村ぁ〜、外線でお電話ですぅ』って言ったら、みんな固まっちゃって、課長なんて怒っちゃったの。

 でも呼び捨てって言われたし、ダメなんてそんなの知らなかったし、しょーがないでしょ? 言っちゃったものは取り消せないし、あとで中村部長にごめんなさいって謝ろうって思ってたら、悠太先輩が一緒に謝りに行ってくれてぇ、『教育係の僕の責任です』って、チョーカッコよくない? 男らしいよね? 素敵でしょ。で、もー、愛莉すぐ好きになって、告白したの。でもね、断られて、涙・涙・涙って感じ。でもそれで諦める訳にはいかないっしょ? だから、次の日も告白して、お弁当作ってきてあげて、お砂糖とお塩間違えて、おにぎりチョーマズいの、でも悠太先輩が全部食べてくれて。それでますます好きになって、残業時間の時に『愛莉のことも食べて』って服を全部脱いで迫ったの、そんで……」

 「ちょ、ちょ、ちょっと、愛莉。そ、そこまで、赤裸々に言わなくてもいいんじゃないかな」

 「ん? セキララ? キキララなら知ってるけど、セキララってどんなキャラ?」


 あー、どうしよう、この短い間にもツッコミどころがたくさんある不謹慎だと思いつつ、彩花(あやか)はワクワクしてきてしまった。


キキララってちょっと懐かしいサンリオのキャラだけど、きっと悠太は知らへんのやろなぁ。それから社内の人のことを呼び捨てでって言われて新入社員が上司を呼び捨てにしてまうのも、お料理に不慣れな子が砂糖と塩を間違えるんもあるあると言えばあるあるやけど。


出会ってすぐ、残業中の社内でそういうことをするんや、悠太ってそういうキャラなんや。



 「違うから、してないから」

 悠太の声で、ハッと我に返る。


 「愛莉に服をちゃんと着せて、その日は普通に家に送ったし、社内でそんなことするわけないでしょ」

 「そうそう、悠太先輩に怒られた。でもね、そんな人初めてだったんだ、愛莉」

 「もうよろしゅおす。二人だけの秘め事を他人にそないペラペラ喋らはんな。ええかげんにしときなはれ」

 「えー、だって悠太のパパりんとママさんだし、お姉ちゃんだもん。他人じゃないっしょ」

 美津子の渾身のイヤミが全く通じない。京女とギャルって意外といい組み合わせなのかもと彩花が思った瞬間、雰囲気をぶち壊す腹の音が響いた。しかもユニゾン、同音・同調の二重奏だ。



 「ヤバ、悠太とパパりんのぐぅぐぅデュエットじゃん。めっちゃ息ぴったり、バッチリ揃ってる、きゃわたん♡」

 「二人ともそない品のない音、やめなはれ!」


 「ごめんごめん、でもさ、今朝早かったし、なんも食うてないんよ、母さんなんかメシある?」

 ほんま、悠太の緊張感のなさよな。嫁姑のバトルってこういうところから生まれるんちゃうん? 彩花が苦々しい思いで睨んでみても、当の悠太はどこ吹く風である。



 「彩花、お台所手伝ってくれはる?」

 「愛莉も手伝います」

 「いえ、お客人は座って待っとっておくれやす」 

 うわ、またすごいイヤミ。さっき愛莉さんが『他人じゃない』って言った言葉に対してピシャリと『お客人』でぶつけてきた。我が母親ながらエグい。もし自分が婚家に挨拶に行くなんて立場になって、この扱いをされたら凹む。



 と、思って視線を移してみたが、愛莉さんは案外、というより全く、平気な様子だ。


 「あざまる~、んじゃあ、パパりんに小さい頃の悠太のお話聞きながら待ってるね〜。ご飯チョー楽しみ♡」



 母親の笑顔が引きつるのをみて、勘弁しとくれ、台所に二人で行くんキッツイわぁ、と彩花は心のなかで頭を抱えた。




 「なんなん、なんなん、あの子。なんやのあの格好。夜のお商売しとる女の格好やろ、品のあらへん。あーーーーもーーーー」

 台所の扉を閉めた途端に母親の口から言葉がとめどなく溢れる。


 「何やの、人様の家に行く格好ちゃうやろ。ピンクて。あない肩出して」

 「オフショルダーな、若い子の間で流行ってるんちゃうん?」

 「いくら流行っとっても、寒いやろ。今、2月やで。ここ京都やで」

 「せやな、トップス短いからヘソもちょい出とるしな」


 「太もももや、スカート短過ぎるやろ、靴下にあないビーズつけて」

 「スパンコールな、スカートとニーハイの間の太もも見えとるところ、絶対領域いうらしいわ」

 「そないなこと知らん。絶対でも領域でも関係ないわ。破廉恥や。山本家の嫁には相応しくない」

 「ま、まぁ、若い子の文化やし、悠太は好きなんちゃうん?」

 昔、バーチャル歌姫として初音ミクが世に出てきた頃、悠太がよく聴いていたことを思い出していた。


「目ぇの下はなんであないきらきらしとるん」

「ラメや、ラメ、目ぇが青いんはカラコンやろ」

「らめ、から、こん」

確かに初対面の年配の人に会いに行く格好ではないなぁ、推しのライブに行くとかならあないな格好もええんやろけど。



 「ねー、美味いっしょ。やったー、パパりんマカロン、チョー好きじゃん」

 居間から愛莉の声が響いてきた。多分先ほどのお菓子を開けて食べたのだろう。これからご飯だというのに。


 昔、彩花と悠太が夕飯の前に隠れてお菓子を食べた時には美津子に竹の定規で嫌というほど尻を打たれた。

 彩花は、自分でも顔が青くなっていくのが分かった。


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