94:食品フロア。
「サクラちゃんっ」
「さぁ、あんたたち、こっちみなさいよ! がおーっ」
地下一階食品フロア。エスカレーターを境に右手と左手に分かれて捜索を開始。
店内にモンスターの姿を発見し、インパクトで殴り倒したのも束の間。
奥の方からガンガンと何かを叩く音がして駆け付けると、社員用スペースへと続く扉の前にゴブリン亜種が三体いた。
「まったく、醜いったらないねぇ。フェザー!」
サクラちゃんの威嚇でゴブリン亜種のヘイトが彼女に向き、扉の前から離れたところでブライトのスキルで奴らは倒れた。
「執拗に扉を叩いたってことは、奥に人がいる!?」
「行きましょう!」
「むす、狭そうだなぁ」
「オヤジ、飛べないか。えっほえっほすればいいぜ」
「ブライト、俺の肩に乗れ。行くぞ」
えっほえっほは移動が遅くなるから……。
観音開きになっている扉を開ける。
ん? なんか予想より、扉が重かったな。
「あ……バリケードがあったのか」
「それで奴ら、開けられなかったんだな」
「でも悟くんはアッサリ開けてたけど」
「バカ力。悟バカ力だ」
ゴ、ゴブリン亜種が非力なだけだと思うなー。
「誰かいますかーっ。捜索隊でーすっ」
「助けに来たわよぉーっ」
「おっ……声が聞こえたぜ。人間の声だ」
「本当か、ブライト。どっちだ?」
「あっちだ」
ブライトが白い翼で右手奥を指す。
その方角にもいくつかバリケードが築かれていた。
これは違う意味で生存者のところまで行くのに苦労しそうだ。
そんなことを考えていると、奥から人の声が。
「そ、捜索隊? 捜索隊が来たのか!?」
「えぇ、来ました。今からバリケードを解いて行くので、そちら側でもお願いします」
「わ。わかりました。おい、誰か手伝ってくれ」
他にも生存者がいそうだ。
双方からバリケードを解体して合流。
ここの従業員らしき男性三人と、客であろう男性二人が出迎えてくれる。
「大変っ。血が!」
「あ、これはわたしの血では……えぇ!? タ、タヌキ?」
「タヌ、え? な、なんでタヌキが」
しまった!?
最近、すっかりサクラちゃんをタヌキ呼ばわりする人もいなかったし、油断していた!
「え、タヌキ? あら、本当だわ。タヌキの置物が」
「サ、サクラちゃんとブライトは、ここでモンスターを警戒してくれ。大きな音を立てたしな」
「あ、そうね。任せて悟くん」
「お、おう。ま、任されとくぜ」
「ささ、奥へ行きましょう。奥へ」
五人を奥へ誘導し、サクラちゃん――タヌキのことは、レッサーパンダと思う様に伝えた。
首を傾げる四人。ひとりだけサクラちゃんのことは知っていたようだ。
「とにかくお願いします。サクラちゃんの生みの親がすぐに亡くなってしまい、同じく生んだばかりの子を亡くしたレッサーパンダに育てられた子なんです。だから」
だから自分をレッサーパンダだと思っている。そう話すと、サクラちゃんを知らなかった四人も納得してくれた。
「それで、怪我をなさっているのは?」
「あ、はい。奥に」
商品の在庫が棚いっぱいに並んだ通路を過ぎると、広い場所に出た。
広いというより、バリケードに使ったカートやカゴの分、広くなっただけか。
そこに怪我人がいた。ひとりや二人じゃない。パっと見ても二十人ぐらいいる。
「サクラちゃん! ブライトもこっちにっ」
「チェンジするか? なぁチェンジ」
「あぁ。ヴァイスとツララに仕事をしてもらわないといけないな」
まずは優先度を決める。
チェンジは雛に触れている人しか転送出来ない。気を失っている人は雛に触れられないから、雛の方から触れてやらないとダメだ。
そうなると、雛に触れられる人数が限られてしまう。
一通り怪我人を見て回り――。
「サクラちゃん、あの赤い靴の人。彼にポーションを二本、その右隣りの人に一本ぶっかけて」
「わかったわっ」
「は、早く連れ出してくれっ。こんな所、もう嫌だっ」
「まずは怪我人を優先します」
「わしも怪我をしたんだ。ここだ、ここっ」
年配の男性が声を荒げ、腕を見せる。
うん、まぁ怪我てるね。擦り傷だ。
「サクラちゃん。ポーション一本くれる?」
「はーい」
サクラちゃんからポーションを受け取り、蓋を開けて彼の腕に垂らしてやった。
「はい。これで完治です。重傷人が優先です。そんな当たり前のこともわからないのですか?」
「わ、わかるかそんなもの! わ、わしはM区の区長とも懇意の中じゃぞ!」
「俺には関係ありませんので」
「おじいちゃん」
「ん? な、なんだタヌキめっ」
「失礼しちゃうわね……。おじいちゃん、ちょっと黙っててくれる? 壁際の方で大人しくしててくれるかしら」
サクラちゃんがほんのり光る。
チャームを使ったな。
邪魔をしてきたお年寄りは、サクラちゃんのチャームに掛かってとぼとぼと壁際へ歩いて行って、そこでぼぉっと立っていた。
「ありがとう、サクラちゃん」
「ふふ。どういたしまして」
「悟。ヴァイスとツララの準備が出来たぜ」
「わかった。じゃあまずこの人からだ――」
さぁ。ここからは時間との勝負だ。